emily

彼とわたしの漂流日記のemilyのレビュー・感想・評価

彼とわたしの漂流日記(2009年製作の映画)
3.6
人生に行き詰ったキムが身を投げると、たどり着いたのは、生態景観保護地域として一般人の立ち入りが制限されている川の中の無人島に漂着。はじめは死ぬことを考えていたが、やがて食べ物を調達してただ生きる日々にのめりこんでいく。そんな彼を発見したのが高層マンションで暮らす引きこもりのわたし。半年に1度行われる訓練空襲で、20分の間すべてが止まり、国民も避難して居なくなる。そのときに望遠カメラでヘルプの文字を発見して、彼を眺めることが私の日課になる。なんとか彼にメッセージを送ろうと奮闘する・・

死ぬことしか考えてなかったキムが、皮肉にも生きるために食料を調達し、日々知恵を絞って漂流生活を楽しむ。しかしその無人島はいつでも帰れる場所にあり、火を起こすも成功せず結局見つけたライターを使ったり、懸命な中に皮肉がスパイスとして流れ、結局文明なしには生きていけない、人は一人では生きていけない様を痛切に描く。彼を見つける彼女もまた親により支えられ好き放題やってられるのだ。おかれてる環境は違えど、二人は同じ境遇でつながっており、運命という偶然によりロマンティックな出会いを果たす。

前半はキムの漂流生活に重点を置かれ、過去の映像を交差させ、どのように現状におぼれていったかをしっかり描く。だからこそ無人島での生活は現実逃避であり、助けを求めてた彼がその生活を楽しめるようになるのだ。今まで当たり前だったことが当たり前でなくなり、無駄にしてきたことすべてが今の現状においては大事であり、生きるとは食べて、排せつして、寝る。そんな単純なことを積み重ねていくことだと気づかされる。

引きこもりの彼女は、彼にメッセージを送るために、一歩家を出る。ヘルメットを深くかぶり、人が通ると傘を広げて隠れる。徹底した武装で、奮闘する様は心温まる。人生に行き詰った二人が出会い、それは磁石のようにひかれあう。同じ境遇の二人が落ちていくパターンはよくあるが、この二人はお互いの存在が今の現状から背中を押してくれる存在となる。

人は決して一人では生きていけない。外の世界から完全に遮断することはできない。自分の居場所を見つけた彼と、そこから全くでようとしなかったわたし。でもそんな生活はいつまでも続かない。現実逃避は思わぬ形で幕を閉じるのだ。それはお互いに良い相乗効果をもたらし、居場所という自分の殻を割る結果となる。一人では無力でも、二人で手を取り合えば、生きることも悪くない。生きることは単純なこと。難しく考える必要なんてないのだ。そうしてパートナーがいればそれは無限大に広がっていく。漂流生活が、引きこもり生活が教えてくれたことは本当に単純なこと。そうして皮を破って初めて人間らしく、男と女として、新しい漂流日記が始まるのだ。
emily

emily