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パンズ・ラビリンスのRenのレビュー・感想・評価

パンズ・ラビリンス(2006年製作の映画)
4.0
先日久々に観たくなって再見。やはり相当ヘンなバランスの下に成り立っている作品だなぁと実感した。ダークファンタジーとは、と聞かれたらとりあえずこれを観せれば大丈夫であり、『シェイプ・オブ・ウォーター』と双璧を成すデルトロの代表作であることは確実。

ダークファンタジーとしてのキモさや目新しさも、内戦下での残酷さや非道さも味わえるけど、それぞれがかなり乖離していた印象がある。が、その辺りは『シェイプ ~』で円熟した、ということなのだと思う。改めて、この頃のエッセンスを強烈に残しながらアカデミー作品賞を獲得したのはかなりすごい。

少女が物語の中へ誘われ、物語とは?を語る物語になっていく、『ふしぎの国のアリス』と『ビッグ・フィッシュ』のマリアージュ〜デルトロ味を添えて〜。
デルトロは、幻想の物語を安易に現実からの逃げ場にはしない。オフェリア(イバナ・バケロ)がどこへ行こうとも支配や恐怖からは逃れられない。また首尾一貫して大人たちは物語を「子どもが読むもの」と一蹴しており、物語の力によって動かされるのはオフェリアだけであるという構造がこの映画を面白くしていると思った。

現実のオフェリアの周りの大人は、ビダル大尉(セルジ・ロペス)もメルセデス(マリベル・ベルドゥ)でさえも暴力の輪に加害者か被害者として巻き込まれていく。煌びやかで華やかな幻想の世界にさえも、妖精を食い千切るクリーチャーが存在する。オフェリアは暴力の輪を掻い潜りながら生きようとする唯一の存在であり、そんな彼女が物語を信じて辿り着くラストにも説得力がある。常に彼女の周囲に存在していた生/死の概念から突き飛ばされるような幕引き。「だから少女は幻想の国で、永遠の幸せを探した」。

冒頭の意味深なショットもとても素晴らしい。デルトロはどこか輪廻的な思想が強いように思われ、『シェイプ ~』『ナイトメア・アリー』も同様に「円環構造」が印象的な映画となっていた。今作もまた然り。

クリーチャーの造形は今更褒めるまでもなく素晴らしい(ペイルマンはもはや伝説)けれど、美術も撮影もとことん美しく素晴らしい。16年間の作品だけどちゃんと綺麗に見えるのが凄まじく、アカデミー賞3部門受賞も納得。脚本賞にまでノミネートされながら外国語映画賞を逃したのは残念だけど....(同年の受賞作『善き人のためのソナタ』は未見)。
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