あんがすざろっく

判決前夜/ビフォア・アンド・アフターのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

4.5
アメリカ、ニューハンプシャー州。
ここで小児科医として働くキャロリンは、夫で彫刻家のベン、息子のジェイコブ、娘のジュディスの4人暮らし。ある日キャロラインの勤める病院に、殴打された少女の遺体が運び込まれる。少女はジェイコブの友達だった。
しばらく後、刑事が家に訪ねてくる。ジェイコブと話がしたいという刑事。件の少女殺害において、ジェイコブが有力容疑者にあがったのだ。



重い…とにかく重い。
メリル・ストリープ、リーアム・ニーソン、エドワード・ファーロングという布陣ながら、ストーリーは重く、華やかさはありません。
きっと、重くのしかかるような曇天と、雪景色が映画全体を覆っているからだろうな。
同じく、地味ながらも、前回レビューをあげた「ディープエンド・オブ・オーシャン」とは真逆の家族の描かれ方。しかも両作とも原作が存在しています。
なるほど、どちらも小説がベースになっていても不思議ではない作品でしたね。
真逆ではあるのだけど、僕はどうもこの2本を切り離して考えられません。
だから続けて見返したんだけど。

賛否両論あるようですが、僕は個人的に好きな作品でして。
夫婦の考え方が、こんなに別々の方向を向いてしまうなんて。

特に、事件が発覚してからのリーアム父さんの行動に、否定的な意見が集中してしまっているのかな。
何だろう、僕は全然不思議に思うこともなく、観てしまったんですよね…
リーアム演じるベンは、芸術家だから、考え方がどこか理想を追い求めるというか、現実からは少しかけ離れています。
僕は、それでもベンなりの努力に、とても心を揺さぶられたんです。
彼は、自分が弱い人間だとちゃんと理解していたんだと思います。
現実を直視できないことを、きっと分かっていたんです。
だから、彼なりに強い父親になろうとした。

メリル・ストリープの名演もありますが、僕はニーソンの父親像に(決して正しくはないけど)ずっと目を奪われていました。

ジョン・コナーも少し大人に、エドワード・ファーロングが、渦中のジェイコブを演じます。
突っぱってるけど、どこか子供らしさが抜けない、それでいて繊細な感じがよく出ています。


後もう一人、ジェイコブの弁護を引き受けるパノスを演じるアルフレッド・モリーナ(スパイダーマンのドクターオクタヴィアス役の方)がいますが、僕はこの作品で彼のキャラクターが一番好きでした。
数々の弁護で輝かしい勝利を勝ち取っている、百戦錬磨の強者。
決して高らかに正義を掲げる訳ではなく、どんな手を使ってでも勝訴を掴みとるのが彼の流儀。

自分達が、よもや容疑者の家族になるとは思ってもいなかったベン夫妻に、パノス弁護士は厳しい現実を突きつけます。
そのデリカシーの無さに、キャロリンは激昂、一度は非礼を詫びるパノスですが、ここで理性を失っていたら、裁判なんて続けられませんよ、と釘を刺します。
私の依頼人はジェイコブで、あなた達ではない、と、はっきり線を引きます。
気持ちのいい人間ではないけど、裏表がないんです。
彼が最後に語る言葉が、何よりこの作品のテーマを物語っています。

僕はどんな映画を見ても、主役とか、好印象を与えるキャラクターよりも、一癖二癖ある人物に惹かれるなぁ。
実際近くにいたら嫌だけど(笑)。


気になった点と言えば、殺害された少女の描かれ方かな。
いやいや、そこまであけすけに悪意を持って描かなくても…と少し引きました。
でも、見ているうちにグイグイ引き込まれます。



僕が本作を観たのは、新宿にあったシネマスクエアとうきゅう。
個性を押しだすミニシアターが多数あった中、このシアターの特長は、なんと言ってもシートの気持ちよさ。
ゆったりと背もたれに身を預けると、下手したら眠くなってしまう程。
映画鑑賞がものすごく贅沢な時間に感じられるような映画館でした。
こういうミニシアターがなくなっていくのは、やっぱり寂しいな。


僕は本作をDVDで所持しているのだけど、まさかこんな重い作品をディズニープラスで見られるとは。ディズニー、恐るべし。
あんがすざろっく

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