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素晴らしい一日のemilyのレビュー・感想・評価

素晴らしい一日(2008年製作の映画)
4.1
 恋人とも別れてしまい、仕事もなかなか見つからず、貯金も底をついてしまった30代の女性ヒスは、元恋人ビョンウンに貸したまま帰ってきていない350万ウォンを返してもらうため、彼がいるであろう競馬場へ向かう。当然お金はその場で返してもらえず、そのお金をかき集めるため、女性たちを訪ね歩く旅に同行する異色のロードムービー。

 設定が非常に面白い。能面のように表情のまったくないヒスを演じるチョン・ヨドンの揺れない無表情と、心情を全く浮き彫りにしない彼女の心が徐々に動き始める様が、非常に丁寧に描かれており、細部にわたる細やかな演出と、寄り添う音楽、かかわる人々と、生活音が密室から枝分かれする深みを与えている。

 ビョウウン演じるハ・ジョンウのダメ男ぶりにはじめはイライラさせられ、ヒスと同じ気持ちで彼をみているのだが、訪れる女たちの話を聞いてると、その人間性や、やさしさが見えてくる。一つ一つの行動が憎たらしいけど、愛らしい。何故か笑ってしまうかわいさがあり、気が付けば彼のとりこになっているのだ。特に車レッカーされてからそれを取りに行くバスの車内での彼の席移動のエピソードが最高に愛しい。

 何気ない二人の会話や、出会う人たちの会話から、ヒスが自分の話をし、少しずつ表情が緩んでいく。またそれを聞いてるビョウウンの天然のやさしさが心地良い。聞いてないようで、ちゃんと聞いてる、その会話の距離感は最強だ。そこから繰り広げられる過去の話、二人で幸せだった過去と、一緒にいなかった過去が交わり、平面な一日の出来事がミルフィーユ状に層を増してくる。

 昼の町と夜のネオン、そこに大人のジャズが寄り添う。別の女性を挟んでの距離感、ヒスの立ち位置も面白く、嫌みなく徐々に人間性を見せていく、会話の挿入にセンスを感じる。

 何かが変わるわけではない。しかし一日彼といることで、自分がどれだけ表面で人を判断していたかに気付くのだ。二人は元通りにならないし、彼は変りもしないだろう。いや変わらないからいいのだ。女はまた同じような男を無意識に選んでしまって失敗するのかもしれない。しかしお金や職業で買えない物があるのだ。また立ち止まった時彼に会いたくなる。何も変わらないけど、変わらないからこそ大事なものに気づかせてくれる。

 二人の距離感がじんわりと交差するように、重なり合い、そうして彼と一緒にいることで気が付くのだ。今まで自分が見てきたものは、表面でしかないということ。お金や見た目、職業、それ以上に人間の備える
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