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女殺油地獄のMASHのレビュー・感想・評価

女殺油地獄(1992年製作の映画)
3.5
五社英雄監督の遺作。近津門左衛門の人形浄瑠璃から始まり、歌舞伎や文楽、そして映画にテレビと。まさに古典であり、同時にやり尽くされたとも言える作品だが、本作で五社監督はそこに自身の解釈を大胆に加えている。その結果、古典的な要素と五社監督らしさがぶつかり合った、非常にアンバランスな作品になっているのだ。

アンバランスと言っても、ここでは一概に悪い意味ではない。古典としての物語や登場人物、五社監督の解釈による視点、そして樋口可南子と堤真一の一目見ただけで只者ではないと分かる演技。これら全てが互いに道を譲らないと言わんばかりの力強さを持っている。どこを切り取っても見応え抜群の作品であることは確か。

だが、あらすじを考えるとどうも納得いかない部分が多い。本来の「女殺油地獄」の内容を理解しているわけではないが、この映画のような人間模様と心理描写は物語に対し複雑すぎるように思える。複雑すぎる故に「なぜ殺しに至ったのか」という部分に強烈な感情の昂りが見えにくくなっている。

肝心の油まみれのシーンもどこかインパクトに欠ける。なんなら音もほとんどなくスローモーションで描かれる殺しはどこか儚くも美しくもある。また、なんてことのない町の情景を、歌や祭りなどを通して文化的側面から丁寧に映し出している。人間のいやらしい部分を描く作品だからこそ、対位法としてそういう描き方を意図的にしているのだろう。それがうまく機能しているかはまた別問題ではあるが。

「女殺油地獄」をそのまま再現するのではなく、あくまで自分の作品として再構築する。その結果、彼の作品の特徴である力強い女性と弱さを抱えた男性との複雑な愛憎関係が全面に出たのだろう。それが完璧にフィットしているわけではないが、古典への挑戦として非常に興味深い作品だ。
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