よしまる

高校大パニックのよしまるのレビュー・感想・評価

高校大パニック(1978年製作の映画)
4.2
 先日レビューした「帰らざる日々」の同時上映。これ連続して観られるって楽しいだろうなぁ。

 石井聰亙が19歳で作った8ミリ映画を日活ロマンポルノのベテラン澤田幸弘監督でリメイク。石井も監督に名を連ねているけれど、実際にはあめり触れてほしくないほど何もしていないと後年のインタビューで語っている。とはいえ、21歳で監督としてこの作品を世に送り出したことは素晴らしい。

 熾烈な受験戦争が社会問題化していた60年代、映画は勉強を苦に自殺する高校生というショッキングなシーンから始まる。
 高校では校長が形式ばった追悼の挨拶を行い、周りの生徒も我関せずと、自身の勉強のことしか頭にない。

 そんな狂った環境において、ふだんはマジメで大人しく目立たない生徒・城野が自殺した生徒を負け犬呼ばわりする数学教師にブチ切れる。
 銃砲店でライフルと弾丸を盗んだ城野は、教師をぶっ殺すために学校へと向かう…

 高校大パニックのタイトルに恥じないパニック描写がまず圧倒的。冗談抜きで、前回レビューしたジョージAロメロよりも遥かにパニック指数が高い。いったい何人の役者やエキストラを使っているのか、100人どころではない生徒たちが校舎の通路や階段で入り乱れる阿鼻叫喚の図は迫力満点だ。

 主人公・城野はただ衝動に突き動かされてライフルを連射し、逃亡し、立て篭もる。そこには思想などない。ただのイカれ野郎とも全く違う。雑誌GUNを愛読していたり、立派なお弁当を作ってもらうほど親には愛されていたり、要所要所で人物像を形作る回想シーンの挿入がお見事。

 一方で、生徒の生命よりも学校の名誉しか頭にない校長と教頭、雑すぎて事態をどんどん悪い方へと向かわせる警察の特捜部課長、子供の気持ちを全然理解できない親、自分の受験の迷惑という発想しかない同級生たち。
 これだけ揃いも揃ってキ◯ガイだらけならば、城野がブチ切れておかしくなっても仕方がないと、観客も思わざるを得なくなってくる。
 マトモな感性の持ち主として登場する生活指導の先生・河原崎長一郎も、良い役どころと見せかけて最後にはしっかり狂う。パニック下で人の本性が次々と露わになってゆくのがめっちゃオモロい。

 今では当たり前にいるキャラ設定かもしれないけれど、そんな狂った人々の中で、周りに染まらず、次第に主人公と通じ合っていくヒロインが当時17歳の浅野温子。
 10代ながらタバコは吸うわ胸はさらけ出すわの大活躍で、作品に華を添えるどころではなく、城野の心情を代弁するかのように慎ましく寄り添っている(そんな話ではないのはわかっているけれど)のがすごく良かった。
 そのきっかけが、籠城する際のリアリティとしての放尿シーンであるのがまた良き。

 突然右翼の街宣車が出てきたと思ったら泉谷しげるが言い争ってたり、和製フュージョンの草分けスペースサーカスによるサントラのかっこよさだったり、後の石井作品への符号もチラついて楽しめる。

 最後の叫びはちょっと笑えてしまうけれど、それくらい切実だったんだよなと、時の流れを感じるのもまた一興。間違いなくシンプルに面白い、そして70年代の熱量が閉じ込められた名作だ。