こたつムービー

暗殺の森のこたつムービーのレビュー・感想・評価

暗殺の森(1970年製作の映画)
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午前十時の映画祭。
この映画は映画館でまた観たいと思っていた。

20代前半のアート志向バリバリの頃、ヤバい映画が再上映する、と自由が丘(だったかな?)武蔵野館のリバイバルに足を運んだ思い出がある。その時振りのリファレンスだったが、ほとんどのカットを覚えていたよ。


原題は「il conformista」。直訳は順応主義者。


原題のもつ味わいが以前観た時より胸に来る。当時若い頃はストラーロの映像美が!とかスタイリッシュな演出が!と鼻息荒く浮かれるわけだが、その素晴らしさは改めて充分再認識しつつも、その「順応主義」っぷりこそをより考える。当時ももちろん主人公の持つこの空虚さを朧げに掴んではいたが、


耽美に浸ってる場合じゃない


感も余裕で去来する。これだから年を経たリファレンス(再検証)は面白い。
トランティニャンはけっしてカッコいい主人公でもなんでもなく「順応主義者」であり、要するにダサい男なのだから。教授は彼の論文を忘れているし、教授の部屋で男の影は消える。

改めて良い映画だな、と思うのはこの重層さだ。

アイドル映画(?)として観てもイケるし政治的思想哲学的に見ても位相が変わり味わい深い。
「虚無に至る病」は若者の特権である。この映画はそんな全ての意味をこめて「かっこいい」。非常に個人的な、プライベートな映画だ。

虚無に至る病が若者の特権である最たる因果はラストシークエンスに顕著に現れる。あんなにおキャンだった妻の死んだような眼差し。子供もでき、時代もかわる。主人公も共同住まいでスタイリッシュさのかけらもない、その残酷さ。そしてそれら含めてこの男の横顔で終わる幕引きが最高に好きだ。

この映画がストーリーテリングとしてあまりに不親切なのに魅力を放ち続けるのは時代を丸ごと吸収している作品だからだと、改めて感じる。数段上の傑作だ。