よしまる

ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖のよしまるのレビュー・感想・評価

3.7
 「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」と「ゾンビ」のちょうど中間の時期に撮られたロメロのパニックムービー。ホラーと言うよりはドキュメントタッチのスリラーで、グロいシーンは全く無く、むしろ精神的な恐怖を煽ってくる。
 低予算と言われた「ゾンビ」の5分の1の制作費$27万。ちなみにアベンジャーズEGの1300分の1笑。

 軍が輸送中の事故で細菌兵器を落っことしてしまったために、アメリカの片田舎の街をロックダウン。
 そのウィルスとは、人を狂わせ攻撃的にするという「狙われた街(ウルトラセブン)」のタバコ成分に同じw

 父親がいきなり奥さんを惨殺し家に火をつけ愛娘を焼き殺すというショッキングなオープニング。
 廃屋を燃やして行う消防訓練に偶然居合わせたという嘘みたいな話で撮影されたシーンが現実味たっぷりで、あっという間に世界観に引き込まれた。
 B級ながらこうした嗅覚はさすがロメロで、強制連行される住民側も、訳もわからず命令に従い暴徒を撃ち殺す軍側も等しく描き、緊急事態における圧力や理不尽さを炙り出している。

 ウィルスが単にもがき苦しんで死ぬようなものではなく、人間を狂わせるというのも絵的に面白い。誰もかれもが凶暴になるのではなく、ある者は銃を乱射し、ある者は静かに笑いながら殺戮する。
 編み物をしているお婆さんも微笑みながら襲いかかる。後に「エイリアン」「物体X」で有名になる誰が感染者で誰が発症するかわからない恐怖のパターンにはなかなか戦慄させられた。
 
 ここをもう少し掘り下げてくれるとさらに評価も上がったのだけれど、主人公たちの逃走劇を中心としたサスペンスに重きが置かれたため、心理戦とアクションホラーのどっちつかずとなってしまったのがやや残念。

 とはいえ軍内部、あるいは軍と町、軍と医療機関それぞれの軋轢など盛りだくさんに描いており、ロメロらしい社会風刺も効いていた。人間の化けの皮を剥がし、軍統制や銃社会などへの警鐘にまで斬り込む手腕はさすがとしか言いようがない。

 クレイジーズ(狂った人たち)は、感染者なのか、感染していないのにパニックを起こす住民たちなのか、それとも軍なのか?
 コロナ禍のいま観るとますますいろいろと考えさせてくれるロメロ33歳の偉大なる習作。