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お茶漬の味のほーりーのレビュー・感想・評価

お茶漬の味(1952年製作の映画)
3.7
戦前、小津が中国戦線から帰還後に製作しようとした『彼氏南京に行く』が検閲を通らず、なくなく映画化を断念したシナリオを改訂して製作したのがこの『お茶漬の味』。

ちなみに検閲で問題視された描写のひとつが「赤飯を食べるべき出征の前晩にお茶漬けを食べるとは何たることか」だったという……。

本作はもう佐分利信、木暮実千代というキャスティングの勝利だと思う。

主人公夫婦は、夫が無口で鈍くさい庶民派で、妻がお高くとまったブルジョア夫人というキャラクターで、これを佐分利と木暮以外に誰が演じられよかというぐらいピッタンコな配役だと思う。


会社の出世頭である夫とは上述の通り性格も価値観も違うため、日頃から妻は夫のことを野暮ったく感じていた。

ある時、妻は自分の姪(演:津島恵子)の見合いの席をもうけるが、元々縁談に乗り気ではなかった姪の方は黙ってその場を抜け出してしまう。

一方、夫は後輩(演:鶴田浩二)と一緒に競輪場やパチンコ屋に出掛けるが、そこへ姪がやってきて無理やり合流してしまう。

夫は「早く見合いの席へ戻りなさい」と姪に言うものの、へそを曲げた彼女は言うことを聞かず、そのまま夫たちと時間を過ごす。

カンカンになったのは妻の方。折角自分がセッティングしたのが全部ぶち壊しになったからだ。

当初は姪と一緒にいたことを隠していた夫であったがすぐにバレてしまい、妻は一言も口をきかなくなり、ついには家を飛び出してしまう。

そんな折り、会社の辞令で夫はウルグアイへ海外赴任することになり……。


本作は『秋刀魚の味』とは違い、タイトル通りお茶漬けが出てくる。そのお茶漬けが出てくるプロセスがしっかりじっくり描かれている。

貧乏だった夫は子供の頃から味噌汁をご飯にかけて食べる習慣がある。それが上流階級出身の妻にとっては見ていて許せない。お茶漬けが夫婦の価値観の断絶を象徴するアイテムのひとつになっている。

終盤、お茶漬けが再登場する時は夫婦の和解の際に出される。しかも妻が夫に作ってあげるのではなく二人で一緒に作るところがミソである。

この丁寧な描写があるからこそ「夫婦って……」という本作の結論が活きてくる。

話は脱線するが個人的にお茶漬けの食べ方は冷飯の上に塩鮭の皮をのせてお茶と焼き海苔をかけて食うのが一番好き。

キャスティングや細部などを見れば上質なのだが、小津監督自身、あまり出来のいい作品ではなかったと述懐しているように全体的なクオリティとしては確かに他の傑作群のような冴えが弱い気がする。

■映画 DATA==========================
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧/小津安二郎
製作:山本武
音楽:斎藤一郎
撮影:厚田雄治
公開:1952年10月1日(日)
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