マヒロ

ビフォア・ザ・レインのマヒロのレビュー・感想・評価

ビフォア・ザ・レイン(1994年製作の映画)
4.0
マケドニアの農村で、ある男が殺されるという事件が起き、そこを起点とした3人の男女の身に巻き起こる死について描いたお話。

沈黙の誓いを立てた若い修道僧キリルが、殺人事件の犯人とされるアルバニア人少女ザミラと出会ってしまう『言葉』、イギリスで働く編集者アンが、優しいが退屈な夫とマケドニア人カメラマンのアレックスの間で揺れる『顔』、カメラマンとしてのキャリアを捨てて地元に帰るアレックスを描いた『写真』の三つのエピソードが、少しずつ絡み合いながら繋がっていく。
面白いのが、ファーストカットとラストカットが繋がることで円環構造のような形になっているというところで、まるで閉じた時間軸の中に登場人物たちが閉じ込められているかのような感覚に陥る。冷静に考えると真ん中の『顔』でちょっと展開に細工されてループしているように見えるだけで、一本道の話であるというのは何となく分かるんだけど、それが分かってもなお奇妙な時間感覚のある不思議な余韻が残る作品だった。社会派な映画ではあるが、映画でしか出来ないような独特の時間操作が作品としての奥行きを生み出している。

アルバニアとマケドニアの関係性については正直全く知らなかったし、ちょっと調べた程度では複雑でわからなかったが、やはりここも領土問題が根底にあるようで、世界中どこを探してもこの手の話からは逃れられんのだなと思うと悲しくなってくる。
今作も民族間の憎しみが描かれているが、作中で明確に描かれる死については同民族での殺しか、もしくは意図せず事故で死んでしまうという形で、他民族同士での殺しというのは無いというのが何となく示唆的で、国家間の争いが個人にも派生し、やがては仲間内ですら殺し合いが始まってしまう……ということなのかも。ループしているような描写についても、いつまで経ってもこの負のループから抜け出せない世界についてのことだと思うとなんだか腑に落ちてしまう。

(2023.142)
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