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おおかみこどもの雨と雪のmochiのレビュー・感想・評価

おおかみこどもの雨と雪(2012年製作の映画)
3.0
初めて細田守作品を鑑賞。いろんな友人に一番いい細田作品教えて?と聞いた結果、この作品が一番回答として多かったので選んだが、正直微妙。メッセージ性があるかと言えば、正直ないかな。最初は頑張って読み込もうとしたが、結局狼と人間のクォーターを育てる話というので終結している気がする。狼であることは、人が生きる上でのなんらかの側面の比喩表現なのかなと思っていたのだが。メッセージ性をアニメに求める方が悪いと言えばそれまでですが。なので、純粋なファンタジーとして楽しめばいいのだろうが、だとしたらあまりにも全てが予想した通りになりすぎる。大学生以上の鑑賞者は子供時代の雨と雪を見れば、すぐにこういう結末になることは想像がつく。そこにはなんの裏切りもない。メッセージ性をうりにするにはあまりにも中身がない。ファンタジー性をうりにするにはあまりにも驚きがない。例えば、「天空の城ラピュタ」と本作品を比べれば差は歴然としている。
そして一番気に入らないのは、現実感がひどく欠如していること。大学生のうちに子供を産むときに、あれだけ純粋な喜びになるだろうか?ブルーカラーの貯金で本当にあの生活水準を保てるだろうか?本当に農業にミシン、料理に学問、人付き合いに仕事、家の修繕、これらの全てをそつなくこなせる人がいるのだろうか?国公立大学の学生はそれほどハイスペックなのか?大学を休学して田舎に移り子供を育てる決断ができるだろうか?仕事を選ぶときに賃金を本当に気にしないのか?こうしたことが全てなんとなくうまくいって物語が進んでいってしまう。狼であること特有の苦しみはたしかにあるだろうし、そこは描かれているが、人間の生活での苦しみはどうなのか。それがこの作品をチープにしている最大の要因だと思う。
そして気になるのは、雨の選択についてである。雨は狼と人間のハーフではない。狼人間と人間のハーフなのである。だから、ある意味で彼はクォーターである。彼は人間の母親と人間の格好をして暮らしている。父親もまた普段は人間の格好である。雪が生まれてきたとき、両親は雪が狼になることを想定してはいない。つまり、人間としての幸せを雪に与えてやることこそ、母親ができることだったのではなかろうか。彼は狼になることを選択するが、だとすれば彼が狼になることの苦しみは描かれて然るべきだし、自然との距離ももっと描かれねばならない。雪が人間になるという結末であるべきだったというつもりな毛頭ない。そうではなくて、あくまで人間の目線、花と雪の目線で一貫して描かれている以上、人間サイドからの語りにならざるを得ないのであり、その目線で言えば人間としての雨の幸せという結末しか描き得ない、といいたい。だから、この目線を貫徹し、人間として成熟する雨を描くか、もっと自然からの目線を取り入れて、結末を保つかをするしかないと思う。目線を取り入れるか、結末を変えるかの2択だった。今回の作品の描き方は結局、人間から「人間以外の世界」を雨が選択した、ということでしかない。そこでは自然の論理や摂理、苦しみの中で雨が葛藤するシーンなどない。つまり、あくまで雨は「我々からいなくなった」だけである。そしてこのような語りはあまりにも短絡的だと思う。
いろいろ書いたが、瞬間的なシーンとしてはカッコイイシーンはたくさんあり、センスは素晴らしいと思った。2人で夜を過ごすカット、雨を探しに行く時のカット、雪が狼であることを同級生に示すカット。ここらへんのカットは美しかった。
最後に。この作品(細田守の作品、とは言えない)はあくまで少女漫画的な作品だと思う。主人公と雨と雪の父親の関係や、その後の展開等は王道にみえる。
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