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左利きの女のmochiのレビュー・感想・評価

左利きの女(1977年製作の映画)
3.9
ずっと観たいと思っていた作品をようやく鑑賞。独特な雰囲気は好きなんだけど、期待は超えてこなかった。1人で生きていくことが、それほどめずらしくなくなった現在からみると、話のテーマがそもそも分かりづらい気がした。あと、ストーリーが本当に何も起きないので、2時間は少し長く感じた。カメラワーク等の面白さはたしかにあるのだが、そこを面白く見せたいのであれば、映画全体をもう少し短くしてほしかった。
前のパートナーとの会話はなかなか深みがあって面白かったし、主人公の女性の撮り方もかなり独特で面白い。無表情やなんとも言えない表情のアップや、こちら側に人がいることを意識したカット(階段の下降からネックレス付着のシーン)は他の映画ではあまり見ない。ドイツの街並みの描写や、特に何も起きてないにも関わらず、何かが起きたかのように流れる音楽も、良い雰囲気を作り出している。
主人公の女性がなんとも言えないかっこよさ。最初のころは比較的リアル路線で、別に映画の中の人という感じはせず、本当にいそうな人だと感じていたが、途中からそれが板につきすぎて、むしろ現実味がなく、かっこいい存在に見えてくる。現実感があるすぎるが故に、現実的ではないというか。なんとも言えない表情や、時折表現される激烈さが良いですな。最後の指輪をしたままの手で、裸足を撫でるところもかっちょ良い。
子供のキャラクターもなかなか。彼自身が、よく置かれている立場を理解しており、1人の人間として、重要なポジションを主人公に対して占めている。子供であるがゆえに庇護の対象である一方で、ときに彼は主人公の導き手にもなる。映画を観に行った時の2人の関係性を見てみるが良い!
鏡のネックレスのシーンはとても良いシーンですな。ネックレスをつけたり、着飾ったりするという行為は、異性あるいは他者に向けられた行為として解されることが多いが、むしろ本作品ではこの行為は自己のためのものであり、誰のものでもない自己を、肯定する、自分の気にいるようにしていく行為として描かれている。このシーンは、いわゆる女の恋愛感が取り返されるシーンでは全くない。むしろ、女性性と普段介されている、見た目の装飾という行為が、男性や他者を意識しない、自己の肯定の表現となっている。化粧を自己のためのものと述べたのがシャネルであるが、このシーンは彼女の発言を思い出させるものであった。
ヴェンダース感がありつつ、ヴェンダースのウェット感はあまり感じられない、結構独特な作品でした。そこが好き嫌い分かれると思う。個人的には他のヴェンダース作品の方が好きでした。あと、最後に字幕でテーマ的なことを述べちゃうのもなぁ。
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