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オートクチュールのmochiのレビュー・感想・評価

オートクチュール(2021年製作の映画)
4.3
めっちゃ面白かった、名作に出会った!と思ったら評価がそれほど高くなくて意外。まあ展開に意外性はないし、よくあるテーマの映画といえばその通りかもしれないが、一つ一つを丁寧に描いている点は好感が持てた。あと映像の雰囲気はすごく好きだな。音楽の使い方があんまり良くなく思えたのと、革新性が足りないということで4.5は超えられないという評価。
あんまり物事の本質をジェンダーやセックスに帰すのは良くないと思うんだけど、女性が圧倒的マジョリティなコミュニティにおける会話やコミュニケーションの妙が描かれているように、シス男性の私からは見えたので、一つ一つのシーンがとても興味深かった。性的マイノリティ(?)の人物が良いスパイスになっていたと思う。あと、長さをしっかり2時間以内に収めたおかげで、くどさがなく、質の高さを保ったまま終わった映画だと思う。
技術者や芸術家の苦悩と、自己の人生を肯定したいという気持ちはよく描かれるテーマだし、恵まれない環境の若者が、全く別世界に参入する話はたくさんあるので、この点は新しくはない。一方で、若者のもといたコミュニティとの関係は丁寧に描かれていると思う(安直に対立する、というようには描かれていない)。また、技術者や芸術家といった、師匠にあたる人物が、逆に若者に何かを教えられる、という展開もまあ良くあるといえばよくある展開。一方で、この部分を長く描こうとしすぎていない点は良かった。
主人公の若者の母親と師匠は類比的かつ対比的な存在として描かれている。両者は真逆の環境で暮らしているし、かたや子を失い、かたや子に依存している。一方で、両者は人生に失望しており、子供との関係に不和を抱えている。両者が抗うつ剤を用いているという事実や、信仰に傾倒しているという事実は、これを裏付ける。師匠にとって、仕事が人生に対して重すぎた。一方で、母親にとっては、子が人生に対して重すぎた。主人公の若者と師匠の絆は、人生を拡大することで、人生における仕事の役割を相対的に軽くした。一方で、主人公が母親から去ったことで、母親は子供から解放され、人生が軽くなった。その結果、彼女は歩けるようになる。
宗教的な部分は、ユダヤ教徒でもキリスト教徒でもない私にはわかりませんでした。あと、フランス社会の問題も指摘してるんだろうけど、そこも難しかった。階級意識や人種意識がすごく深く根付いてしまっていることはよくわかりました。特にそれが、汚い言葉や問題発言に表れているだけではなくて、普通に話しているつもりで登場する言説(ときにはいい話としても語られていた)にも表れている点は、映画としてとても面白かった。香水を盗んだ後に受ける説教とか、完全に育ってきた階級が高かったから言えることだし。師匠が汚い言葉を使う、という描写は何を伝えたいんだろう。技術者はああいうもんだと言いたいのか、ああいう発言をしてしまっても、それでもなお人と共存していくためにはどうしたら良いか、を描こうとしているのか。
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