ひでやん

蜘蛛巣城のひでやんのレビュー・感想・評価

蜘蛛巣城(1957年製作の映画)
4.4
シェイクスピアの戯曲「マクベス」を戦国時代に置き換え、一人の武将の運命を描く。

冒頭、荒涼とした地に城跡がある。つわものどもが夢の跡という光景だが、やがて霧に覆われ、霧が消えると現れる城門。

黒澤作品随一の規模で制作された巨大なオープンセットの蜘蛛巣城、エキストラ人員と500頭以上の馬が圧巻。特撮もCGも使わない迫力ある映像に魅了される。

時代劇に能の様式美を取り入れ、ロケーション撮影は水墨画のような美しさがあり、室内シーンは能の舞台を意識した演出で、固定したカメラによる引きの画が多い。

蜘蛛手の森で迷うシーンは、カメラを右へ左へと動かし、観客まで方向感覚を失うような映像だった。

森で出会った老女の予言通り北の館の主となった武時。もののけに操られ妻にそそのかされ、友も主も裏切る。

妻の浅茅を演じた山田五十鈴の演技は凄かった。能面のような顔が般若の形相に変わり、内に秘めていた野心や強欲がえげつないほど剥き出しの演技。

武時役の三船敏郎は、疑心暗鬼になった男の弱さと愚かさを見事に演じた。

この映画はなんといっても伝説になったラストシーンが最大の見せ場。森が動き、大量の矢が放たれる場面だけでも観る価値がある。ドスドスと突き刺さる矢の迫力と恐怖する三船敏郎の表情が脳裏に焼き付いて離れない。

本物の矢を使った黒澤に三船敏郎がキレちゃったから、あの表情は演技ではなく本当に怖かったんだね。

撮影終了後、「俺を殺す気か!?」と怒鳴った三船。その後も、自宅で酒を飲んでいるとそのシーンのことを思い出し、腹が立った三船は、散弾銃を持って黒澤の自宅に押しかけ、自宅前で「こら〜!出て来い!」と叫んだというから驚き。伝説のシーンには伝説のエピソードあり。

オープニングと同じシーンで締めくくるエンディングは、おとぎ話を観たような気持ちになった。
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