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野良犬のMASHのレビュー・感想・評価

野良犬(1949年製作の映画)
4.5
刑事ドラマの元祖であり、バディものの元祖でもある本作。黒澤明といえば時代劇というイメージが強いが、こういう戦後の舞台にした作品も多いんだな〜。そして相変わらず圧倒的なクオリティ。終戦直後の東京をリアルに切り取りつつ、重厚なサスペンスとして仕立て上げている。

この作品の大きな特徴として、その演出の巧みさが挙げられるだろう。戦後の闇市の様子を実際にドキュメンタリー風に撮影したり、音楽と映像をあえて調和させない対位法。そしてじりじりとした暑さで難航する調査と主人公の焦りを表現して、土砂降りのシーンで登場人物の感情の爆発を表現する。まぁこの感想はほとんどネットの受け売りではあるが(笑。でもこれらを意識して観ると、確かに巧みな表現方法だと思う。例えそういう詳しい事が分からなかったとしても、この映画のラストへの盛り上げ方が非常に優れている事は誰の目にも明らかだろう。

しかし、僕が感銘を受けたのはそういう技法的な部分だけではない。それはこの映画のテーマにある。この映画の題名である"野良犬"。これは主人公の村上を表しているのだと思う。そして犯人は劇中でも言われているが"狂犬"である。彼らはラストシーンまで会う事はないが、村上は犯人にどこか共通点を感じている。そして「野良犬は狂犬になる」というセリフから分かる通り、村上もこの犯人のように"狂犬"になってしまう可能性もあったのだ。

しかし彼はそうはならなかった。戦後という激動の時代において、多くの人が善悪の境目が分からなくなってしまっていた中、村上は社会のせいにして悪事を正当化することなく真っ当に生きることを選んだのだ。どんなに社会が悪かったとしても、悪事を行うかどうか選ぶには人間である。戦後という時代に作られたからこそ、非常に力強いメッセージが感じられる作品だ。
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