開明獣

レッド・ツェッペリン/狂熱のライブの開明獣のレビュー・感想・評価

5.0
3拍裏から入るドラムのイントロからギターのリフが始まり、ベースが唸りながらサポートに入る。オープニング・ナンバー、「ロックン・ロール」から既に少年たちの心拍数はあがり、手にはもう汗を握っている。

田舎のロック少年たちは、小遣いを握りしめて街場の映画館へ、バス代節約するために長い道のりを自転車で三々五々向かっていった。観終わった日の夜は、誰かの家に集まって感想を夢中で語り合う。

当時のギターキッズの間では、ハーモニック・マイナースケールを取り入れてクラシカルなフレーズを多用していた、ディープ・パープルのリッチー・ブラックモア、ジャズテイストで、ディミニッシュスケールなども取り入れてクロスオーバー(のちのフュージョン)のジャンルをロックギター側から開拓したジェフ・ベック、そしてロックの王道、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジが人気を三分していた。(クラプトンは、レイドバックしたジジィの音楽として敬遠されがちだった。若気の至りである。)

結局は3人ともペンタトニックをベースとしたブルースロックのプレイが基調なんだけど、その中でもっともロックしていたのが、ジミー・ペイジだった。

編集されていたとはいえ、ロックギターソロのお手本が散りばめられてる本作に、ギターキッズは目を輝かせたものだ。スタジオテイクよりアグレッシブな「ロックンロール」、ブルージーな途中の崩しが魅力的な「セレブレイション・デイ」、高速アルペジオのソロプレイが華やかな「永遠の詩」、ジャージーでスリリングなソロが印象的な「ノー・クォーター」など、ツェッペリンがライブバンドであることを証明する名演揃いだ。

当時はギターは「速く弾けるやつがエライ」という間違った迷信が罷り通っていて、「ジミー・ペイジは下手だ」という誤った風説が多かったが、今ではそんな話しをするのヤカラもいなくなり、偉大なギタリストとして称えられている。

ドラムのジョン・ボーナムの死によって、終焉を迎えざるをえなかったツェッペリン。よくツェッペリン好きの酒席の話題に上るのが、「誰ならボンゾの代役に最適か?」だ。実際に再結成が計画された際に招聘された、トニー・トンプソンが最有力候補だと思う。トンプソンが交通事故に遭ってしまい実現しなかったが、ロバート・パーマーらと組んだパワー・ステーションでの重たい太鼓はボーナムの代わりが務まる可能性を感じさせるに充分なものだ。

対抗馬はTOTOのジェフ・ポーカロ。ラウドネスの故樋口宗孝も絶賛していた、セッション畑出身ながら、存在感のあるドラムを叩く男。そして、そのサウンドは重くズシリとくる。TOTOの艶やかなサウンドからはイメージがつき難いかもしれないが、ミュージシャンズ・ミュージシャンとして、同業からも非常に評価が高い。

トンプソンもポーカロも亡くなってしまった。再結成公演では、ジョンの息子のジェイソン・ボーナムが叩き、親父さんを彷彿させるプレイでリスナーを沸かせた。この映画の中で、子供の頃のジェイソンが登場してドラムを叩くシーンがあり、今観ると目頭が熱くなる。

年齢的に、もうパフォーマンスをすることは無理だろう。再結成時のライブでは、何か違和感あるなと思ったら、キーを1音下げてプレイしていた。もうあのハイトーンは出ないのであろう。

語り出せば、尽きることのない思い出の作品。何しろやることなすことカッコよかった。バイオリンのボウで演奏したり、テルミンでサイケデリックなパフォーマンスしたり、ライブで観れなかったのがこれほど残念なバンドはないくらいだ。破壊力満点のドラムソロや、ブギウギアレンジの入った、「胸いっぱいの愛」や、何もかもが最高だった。途中に挿入されたライブ以外の映像も貴重なもので、有り難く観たものだ。ライブだけ観たいなら、ライブに行くか、海賊版を観てればいい。これは記念の映像なのだから、これがいい!!

ロバート・プラント、ジミー・ペイジ、ジョン・ポール・ジョーンズ、そしてジョン・ボーナム。この4人の天才が創り出した奇跡のケミストリーが堪能出来る贅沢な映像に心から感謝している。
開明獣

開明獣