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鶴八鶴次郎のほーりーのレビュー・感想・評価

鶴八鶴次郎(1938年製作の映画)
4.6
新内語りの鶴次郎(演:長谷川一夫)と相方で三味線弾きの鶴八(演:山田五十鈴)による藝道ムービーである。

成瀬巳喜男の藝道物と聞くと後年の作品群のような堅苦しいイメージがまず浮かぶが然に非ず。

実にスピーディーに展開する若い男女のラブストーリーとしての側面もある作品だった。


大正時代。新内節の芸人コンビである鶴賀鶴八と鶴次郎は若いながらも才能と人気に恵まれて、ついに名誉ある名人会の舞台を踏むこともできた。

この二人、幼い頃から兄妹のように過ごしただけあって普段は仲が良い。

だが、鶴次郎が藝熱心のあまり舞台が終わる度に鶴八の三味線にダメ出ししてしまう。藝人としてのプライドの高い鶴八の方もそれに反発し、そうなると二人の口論が収まることはなかった。

特に鶴次郎は鶴八が贔屓口の友禅染の若旦那(演:(ヘンリー)大川平八郎)と仲良くしているのが気に入らず益々鶴八にあたる始末だった。

鶴次郎の番頭(いわばマネージャー)である佐平(演:藤原鎌足)や太夫元(いわば興業師)の竹野(演:三島雅夫)はそのことにいつも頭を抱えていた。

ある日、竹野の計らいで名人会が成功した褒美として二人を温泉場に旅立たせる。やっと仕事から離れて二人っきりになったところで、彼らは素直に己の心情を告白する。

お互い相手のことが好きだとわかった二人は結婚を誓い、やがて自分達で寄席をもつことを夢見るのだが……。


ある時は仲良くなったり、またある時は仲違いしたりと色々と忙しいカップルである。

それでいてイライラしてこないのは、全体的に会話が江戸弁で歯切れがよくて、会話のリズムに小気味良さを感じるからであろう。

なおスピーディーに感じるのは会話のせいだけではなく、川口松太郎のこの原作が元々はジョージ・ラフトのハリウッド映画『ボレロ』(未見)を翻案したものだからかもしれない。

だから垢抜けた感じがしたんだなぁ。

昭和十三年の作品だから当たり前だが、長谷川・山田のご両人が本当に若い。首に贅肉のない長谷川一夫なんて自分が知ってる長谷川一夫じゃないもん(笑)

藤原釜足や三島雅夫もルックスは変わらないが、よぉく近くで見ると随分若く感じる(何しろ二人共、今の僕とほぼ同年齢!)。

今観るとこの話のラストの鶴次郎の決断は理解しにくいものだが、時代背景から考えると致し方ないと思う。

この先はネタバレになるので詳しく書けないが、一度はどん底に堕ちた鶴次郎だからこその仏心なのだろう。

そんな長谷川一夫に寄り添う藤原釜足の存在が好印象だった。

■映画 DATA==========================
監督:成瀬巳喜男
脚本:成瀬巳喜男
製作:森田信義
音楽:飯田信夫
撮影:伊藤武夫
公開:1938年9月29日(日)
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