エディ

フェイシズのエディのレビュー・感想・評価

フェイシズ(1968年製作の映画)
4.1
結婚して10数年経った倦怠期の夫婦の関係がたった36時間で決定的に壊れるサマを描いた映画。大資本に頼らず私財をなげうって監督自らの自宅で撮影されたというドキュメンタリーのような作りが非常に効果的。

些細なことで夫リチャードは妻マリアに別れを切り出し、互いに別々の夜を過ごす。夫は高級娼婦と一夜を過ごし、一方のマリアは友達たちと遊びに行った先で若い青年をゲットし家に連れ込み一夜を過ごすが。。。

この映画は作り笑いの苦しさと沈黙の持つ重さを気付かせてくれる映画だと思う。別れを切り出す前の二人は、完全に気持ちがすれ違っているのだが、表面的に会話をつなげている。そして、関係をつなげるためだけの不毛な笑いが二人を覆っている。

実に不快な時間だが、突然切れたリチャードの発言で二人は別々になる。普通の映画だと、そこから二人は羽を伸ばし自分の本当の感情を取り戻していくのだろうがこの映画は違う。

リチャードもマリアも楽しんでいるように見えて実に不毛なのだ。夫婦間の会話も空虚だったが、友人達や娼婦や他の客との会話も、もしその場に居合わせていたら穴があったら入りたいくらいに聞くのが辛い無理した会話や笑いが延々と続くのだ。
どいつもこいつも笑いが空虚で、すごく乾いた無理な笑いをしている。楽しくないし、実際イラつき怒っているのに険悪な関係を避けるために笑っているのだ。

大人が学んだ処世術ってこれなのか。砂を噛む様なシーンが延々と続くので、正直逃げだしたいくらいに辛かった。

結局、マリアは自殺未遂をしてしまう。離婚を切り出した瞬間は不条理を感じたが、マリアが咄嗟に死にたくなった気持ちは良く判った。こんな笑いに満ち溢れているのなら、その場から逃げ出したくなる。

この映画を観ているうちに、ビリージョエルの名曲「ストレンジャー」を思い出した。人はみな自分を守る仮面を被っている・・・。

誰もが本心を見せ合うほど心に余裕がない。本心を示すことなく、ただ日々をやり過ごすためだけに笑いや愛想を振りまいて生きているのだ。夫婦だろうと友人だろうと出会う人々全てと仮面越しに笑顔を振りまいているだけの日々はどこかで破綻するだろう。いや、破綻してほしい、そんな気になってしまった。

ラストもまた虚しい。まるで、前世のカルマ(悪行)を償うために無間地獄に落ちてしまったようだ。

これが傍目に成功した人の人生なのだろうと思うと実に虚しいが、たった2時間で人生の虚しさをここまで感じさせてくれるのだから、この映画は凄いと思う。
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