えむ

ニュー・シネマ・パラダイスのえむのレビュー・感想・評価

5.0
この作品はもう私にとっては永遠のベスト・オブ・ベスト、好きすぎてどうにも言葉にしづらい作品なのだけれど、先日モリコーネのドキュメントを観たことと、アカデミー絡みでまた放映していたのを機に、少しだけレビューを書いておくことにする。

シチリアの小さな街の映画館、幼少時から映画を愛し、映画技師と心を通わせながら成長する少年。

映画は友達と行くものという年頃だった学生時代、どうしてもたつたひとりででも観たくて劇場に足を向かわせ、映像と音と空間とに包まれながら映画の世界に浸りきる、その私にとっての映画との関わりの原風景の全てがこの映画の存在にある。

そんなわけで、子供時代のトトを自転車に乗せて走る技師アルフレードの姿は、もはや自分にとってのノスタルジーの象徴みたくなっているのだけれど、初めてこの映画を観てから歳を経た今観ると、心の視点がアルフレードに寄ってきたせいか、折に触れて少年の心を成長させ、最後は背中を押して街の外へと卒業させる彼の愛と懐の大きさに、さらに深く心震えるのです。

加えて、母親の愛にも。

トトとアルフレード、そして映画館、物語の焦点はここに合っているけれど、トトと映画とアルフレードの関わりを自由にさせて見守り、30年振りの帰郷のときには、彼が心から愛した想い出で部屋を満たし、彼がこれだけ長く家を開けても絶対に知らせが必要なことを知っている。

アルフレードとは違う形でも、いつも、鈍化時でも息子を深く理解していたということに、若い頃には気づくゆとりはなかったなあ、と今頃になって感じます。

そして、全編通してひたひたと流れていたノスタルジーが爆発するラストシーンの美しさよ。

このシーンに限らず、何度観ても泣いてしまう。
作中の映画館にいるセリフおじさんみたいに、身体が反応してしまう。

映画の中で描かれてもいるように、いつかは人は先へと進んでいかなくてはならない。
全く変わらないことなんかできないから。

まぼろしを越えて、懐かしさと少しの痛みを抱えながら、進んでいく。

それでも、どんなに時代が流れても、自分が変わっていっても、これから先もこの映画の美しさは、きっと私のベストであり続ける、そんな気しかしない1本です。
えむ

えむ