鋼鉄隊長

海底軍艦の鋼鉄隊長のレビュー・感想・評価

海底軍艦(1963年製作の映画)
3.5
購入したDVDで鑑賞。

【あらすじ】
海底に潜むムウ帝国が全世界に宣戦布告。ムウ帝国の野望を打ち砕くべく、白羽の矢が立ったのは大日本帝国海軍の残党が造った万能戦艦「轟天号」だった…。

 轟天号は男のロマンだ。戦艦と潜水艦を掛け合わせて艦首にドリルを取り付ける。この「お子様ランチ」的発想にどれほど多くの少年が熱狂しただろうか。アメリカではその雄姿を「原子の龍(atomic dragon)」と称して『Atragon』の名で大々的に上映した。ドイツでは題名を『U2000』に変えて公開し、ちゃっかり自国の手柄にしようとした。当然日本でもその人気は凄まじい。帝国海軍幻の秘密兵器だった轟天号は、『惑星大戦争』(1977)では宇宙防衛艦に、『超星艦隊セイザーX』(2005)では迎撃戦艦、未完のアニメ作品『新海底軍艦』(1995)では大和型戦艦四番艦ラ號へと姿を変えて次々と武勲を上げ続けた。まさに轟天号は東宝が世界に誇る看板役者であったのだ。
 にもかかわらず『海底軍艦』はカルト的人気に留まっている。なぜだ?轟天号の洗練された造形は、今でも全く色あせてはいない。そのままの姿で『レディ・プレイヤー1』に登場させても十分盛り上がっただろう。惑星ドゥームでの最終決戦にて、敵陣に突撃する轟天号を想像しただけで目頭が熱くなる。あぁなぜ夢の超兵器がスコア3.3という微妙な評価で埋もれてしまったのか…。
 考えられるのは相手が悪かったということ。つまりムウ帝国だ。これがどうにもこうにも弱いのである。地上より高度な文明を持つ割には、見た目は妙に原始的。一部工作員を除いて戦闘力も低い。女皇帝はアッサリと捕まる。帝国の心臓部はすぐに破壊される。よくそれで全人類にケンカを売ったものだ。地熱でホカホカな文字通り「温室育ち」な連中である。最大の不満は守護神マンダだ。最期があっけなさすぎる…。そもそもは「大蛇マンモススネーク」としてデザインされた怪獣が、「辰年(1964)だから龍にしよう」との安直な理由で海龍になった残念なキャラである。我らが轟天号の敵では無い。
 それこそガミラス帝国くらいが丁度良い相手だったかもしれない。クライシス帝国にも善戦するだろう。完全無欠の轟天号には東宝最強の敵をぶつけて欲しかった。ムウ帝国恐れるに足らず。とは言え彼らを嫌いにもなれない。工作員のバレバレの変装や天本英世の怪演には、どこか憎めない雰囲気がある。ツンとした皇帝の態度は美しさを際立たせていた。そして何より哀愁溢れるあのラスト。敵ながら情が芽生えてくる。あぁ愛しきムウ帝国よ。超弩級ロマン軍艦轟天号と共に再び姿を見せてはくれないだろうか。『ゴジラ FINAL WARS』(2004)のマンダ戦では物足りない! リメイク版『海底軍艦』はまだか⁉ 全人類がその帰還を待ち望んでいる。
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