むさじー

セントラル・ステーションのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

セントラル・ステーション(1998年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

<老女と少年が大切なものを探す旅>

代書人という表向き善良な仕事をしながら、郵便料を搾取する詐欺を繰り返している初老の悪女が成り行きから、母を亡くした少年の父親探しをすることになる。国土は広大で暮らしは貧しく治安は悪い、移動するのはバスかトラックのみ、野宿でしのぐという数百キロの過酷な旅をするのだが、やがて希望のない人生を歩んでいた老女と、一人残されて苦境を強いられた少年の屈折した心が動かされ、孤独だった二人に家族のような信頼が生まれる。
老女は少年に出会って、彼に注がれる家族愛と自身の家族への思いに気づかされ、心の奥の良心が目覚めて生き方を悔い改めていく。「疑似家族」のような他人の関係を通して、実は「かけがえのない家族愛」を描きたかったのかと思えた。また、ブラジルの美しく澄んだ自然と、人がうごめく都市部の雑踏の様子が対比するように描かれ、厳しい環境に生きる人間の強い生命力を感じさせる。
そして、終盤で急に信仰の色あいが強くなる。とりわけ印象に残ったのが、夜のカトリック聖堂の集会で、仲違いした少年を追いかけた老女が神々に囲まれて気絶してしまうシーン。意図は読みにくいが、神から自身の罪を責められ耐え切れなくなったとも取れ、老女の変容を促したのが神の力、神の存在と暗に言っているような気がした。
温かくて切なくて深い余韻を残す名作だと思う。
むさじー

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