亘

セントラル・ステーションの亘のレビュー・感想・評価

セントラル・ステーション(1998年製作の映画)
3.9
【父を探して】
リオデジャネイロ。駅で手紙の代書業をしているドーラは、少年ジョズエに出会う。彼は母とともにドーラに手紙を渡していたが、彼の母が亡くなってしまう。身寄りのないジョズエをドーラは渋々手助けする。

ブラジルを舞台にした中年女性と少年のロードムービー。ドーラは手紙の代書業をしながらその手紙を出さなかったりするせこい女性。一方ジョズエは少しませて意地っ張りな少年。旅を進める中でドーラにいつの間にか母親らしさが見えたり、ジョズエがドーラになついたり2人の関係性が変わっていく。

[ドーラとジョズエの出会い]
ドーラは元教授だが、今では駅で手紙の代筆業をしている。これは読み書きのできない人々が口述した内容を手紙に書き代わりに郵送するもの。しかしドーラは、ほとんどの手紙を郵送せず、客からの質問には「この国の郵便は信用できない」と言い訳する。そんなせこい女だった。ジョズエとその母マリアはよく来る客だったからドーラもそんな2人を覚えていて、何度も来る彼らをドーラは少し面倒くさがっていた。ある日ジョズエの母が事故で亡くなってしまう。

[ジョズエの引き取り~出発]
ドーラが渋々ジョズエを見守るパート。まだドーラの意地悪さが見える。
駅で一人ぼっちのジョズエを、ドーラは相手にしなかったが、見かねて彼を引き取る。彼女はジョズエを妹イレニとともにかわいがってるようだが、その魂胆は違う。彼を早くどこかに預けて面倒は避けたいのだ。しかし預けたのが悪質な人身売買業者だと分かるとジョズエを奪還する。そして父親への手紙を届けたいというジョズエとともに彼の父親探しの旅に出る。ドーラは優しいように見えて、大ごとに巻き込まれるのに怖気づき責任逃れしたいだけなのだ。

[旅前半ーバス・トラック]
2人が近づき始めるも、ドーラがまだ責任逃れしたいパート。
ジョズエはドーラを嫌がってるが、ドーラは彼の身に何かあってはまずいので彼に同行する。バス旅での2人の様子はまるで親子のようにも見える。しかしそれでもドーラはワインをボトルで飲んだり、そのボトルを放置してジョズエに飲まれたり責任感が薄い。さらにはジョズエを残してリオに戻ろうとするも失敗。お金まで失ってしまう。その後トラックでヒッチハイクした時には店の食品を盗んだりするしドーラは全く変わらない。

[旅中盤ー相乗りトラック・1つ目の街]
ドーラが改心し始め、2人が親子のようになるパート。
トラックに置いて行かれ、ジョズエとドーラは途方に暮れる。そこから何とか別の団体と相乗りトラックに乗ってあちこち回るうちに、2人は親密になっていく。ドーラは以前ねこばばしたジョズエのハンカチを供養するし、自然の中で2人は互いの話をし始める。そして父がいるという町につく。しかし父はすでに引っ越し済みでこの街にはいない。2人は一文無しで取り残されたのだ。さらには2人が離ればなれになりかけて、ドーラは倒れる。まさに危機的な状況。そんな時ジョズエのアイデアで代書人の屋台を始め再び2人は立ち上がるのだ。まさに2人が協力したパートで、ドーラも代筆した郵便を出すし、改心の兆しが見える。

[旅後半ー2つ目の町]
2人が互いに離れ難い存在になるパート。
ドーラとジョズエは、代書業でためたお金で、父がいるという町へ移動する。そこは地の果てともいうべき田舎町だった。そこで父は町にいないという話を聞く。落ち込むジョズエにドーラは「リオデジャネイロに帰ろう」と語る。ついにドーラはジョズエの母親になることを受け入れたのだ。しかしジョズエはやはり父に会いたい。彼が落ち込んでいると偶然ジョズエの腹違いの兄弟たちに出会う。さらにそこで父の手紙をドーラが代読する。そこでジョズエとその兄弟は初めて父親の気持ちを知るのだ。彼らは父を待ち続けることにする。一方で役割を終えたと感じたドーラは1人で立ち去る。その後のジョズエとドーラそれぞれの涙は、まさに2人がかけがえのない存在になったことを表していた。

ジョズエとドーラの関係性の変化が印象的な作品だが、そのうえで最も大きいのはドーラの改心だろう。もともと彼女は意地悪く自己中心的なおばさんだった。ジョズエを邪魔者扱いしたりトラックの運転手に色目を使ったりジョズエを教育すると見せて盗みをしたり、中盤まで悪人だった。しかしジョズエと2人で旅をやりくりする中でジョズエを守りたいという思いが生まれて彼を「憎いほど良い子」というし前なら代書を出さなかったのに代書を出すようになる。ラストシーンの涙も以前なら流さなかったはずだろう。ドーラが善人になったからこそ余計にジョズエとの別れは寂しく感じた。

印象に残ったシーン:ジョズエが代書業の呼び込みをするシーン。ドーラが手紙を書くシーン。ドーラとジョズエが写真を覗き込むラストシーン。

余談
本作は、「サンダンス・NHK国際映像作家賞」を受賞しました。これはサンダンス・インスティトゥート(ロバート・レッドフォード主宰の団体で、サンダンス映画祭を主催)とNHKが映画化予定の脚本に与える賞です。邦画「37seconds」もこの賞に出品されました。
亘