ほーりー

お早ようのほーりーのレビュー・感想・評価

お早よう(1959年製作の映画)
4.5
たとえ屁ばっかり出る映画でも小津の魔法使いの手にかかれば、とても素敵で洒落た作品に大変身してしまう。

ラストシーンが "ヘ" をむりやり出そうとして "ミ" が出てしまった少年のパンツ(勿論洗濯されたあとだけど)というホント身も蓋もないオチなのだが、これが何とも粋な終わり方なのだ。

今とは違って挨拶がまだ普通にあった時代・昭和三十年代の集合住宅を舞台に、小市民たちの生活を見事にスケッチした傑作コメディ『お早よう』。

この手の作品は、庶民の暮らしぶりがやたら美化されがちだけど、嫌ァなギスギスしたご近所関係もつぶさに(なおかつコミカルに)描いている。

自治会費の件で引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、自分の勘違いであることに気づいた瞬間、オホホホと開き直る杉村春子とか、相変わらずこのおばちゃんやらかしてくれる。

さて「どうでもよいことは流行に従い、 重大なことは道徳に従い、 芸術のことは自分に従う」というご自身のモットーの通り、小津監督は本作でもバンバン時事ネタをぶっこんでいる。

「有楽町で逢いましょう」、初代若乃花、ジェスチャー、フラフープ、「楢山節考」、月光仮面、赤胴鈴之助、一億総白痴化、いずれもあの時代を表すキーワード。でも小津監督からすればどうでもよいことだったんだろうなぁ。いずれも。

本作のMVPは選ぶのが大変な位、魅力的なキャラクターが揃っている。

清々しい朝なのにラジオ体操しながら屁ばっかりこいてる親父もかなりインパクト大なのだが(しかも何で構図もこんなにバッチリ決まってるんだ)、誰か絞るとなると産婆さん役の三好栄子と弟役の島津雅彦にやはりなると思う。

牛刀片手に押し売り役の殿山泰司を威圧する三好栄子の絵面の物凄さ。娘の杉村春子に対する独り言も毒たっぷりで可笑しい。

そして何とも可愛らしい島津雅彦の名子役ぶり。プッとおならを出したときのどや顔、洗面所を汚しても知らないフリしてペロッと舌を出す仕草など、ムチムチした体型も相まって思わず I love you と言いたくなる。

やはり子供の出る小津映画にハズレなし。

■映画 DATA==========================
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧/小津安二郎
製作:山内静夫
音楽:黛敏郎
撮影:厚田雄春
公開:1959年5月12日(日)
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