アラサーちゃん

友だちのうちはどこ?のアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)
3.8
間違えて持って帰ってきてしまった友だちのノートを、友だちの家に送り届けようとする少年の映画。それだけの映画。

なのに、素晴らしい。おもしろいとかじゃなくて、ただただ素晴らしいのね。

ノートを送り届けるだけで80分使うくらいだから、「ノートを友だちに返してくる」「宿題先にしなさい!」という母親とのやりとりも、そりゃ10分くらい使いますよね(笑)
主人公は諦めたふりをして、母親の目を盗んで友だちの家に向かって走ります。しかし、友だちの住んでいる場所は同じ地域のなかでいちばん離れている地区。さらに、彼はその地名を知っているだけで、行ったこともなければ見たこともない、友だちの家なんてまったく知らないのです。

そんな見ず知らずのところに、「友だちのノートを届けなきゃ!」という気持ちだけで飛び込めてしまう子どもらしい純粋さ。
ノートというところがまたいいですね。お金とか、もっと重要なものとかでなくて、たかが宿題をするためのノートなんですよ。この道中でおっさんがお金のことで他の連中とくどくどやりとりしているシーンがあるのですが、この子どものピュアな心との対比がまた素晴らしい。

そんな道中の彼を見守るいわば「イラン版はじめてのおつかい」的な感じで(働き者だからおつかいははじめてじゃないけれど、はじめての土地に挑戦するという意味で)いろんな人に道を聞いたり、へんてこな出会いがあったりしながら、目的地に向かうわけ。
そのやりとりを観ているなかで感じる、なんともいえない違和感があるんだけど。それがこの映画の最大のキーポイントだと思います。

大人と子ども。

さっきの「ノートを返さなきゃ」「先に宿題!」論争も含め、子どもは大人に押さえつけられているんですね。子どもは大人に従う。子どもは大人を敬う。それが当然。それが摂理。
だから、こちらの言い分を聞こうともせず命令したり。頼みごとがあれば話しかけてくるくせに、こちらがなにかを尋ねても聞こうともしなかったり。

子どもは素直にそれを受け入れているけれど、主人公や友だちたちのその純真無垢な綺麗な瞳を見ていると、「果たしてこの穢れない瞳に、こんな大人たちはいったいどう映っているのかな」と思ってしまう。
それくらいに子どもたちの絶妙な表情が、揺れるようなきらきらし瞳が、とにかく素晴らしかった。

そしてなんといってもラストですね。オチも、ラストカットも、とくにひねりはないけれどそのぶんスレていないシンプルなラストで、とてもお気に入りです。

内容も映像もそうなんだけど、なんだか彼のなんでもない瞬間を覗き見しているような映画だなあ、なんて思っていたら、案の定この監督さんは日本の小津安二郎の大ファンなんですって。
それを聞いて、なおさらよく感じてしまったよ~。