がんがん

エレファントのがんがんのレビュー・感想・評価

エレファント(2003年製作の映画)
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これはどれだけ咀嚼しようとしても点数を付けられない…

ウトヤ島7月22日を鑑賞後、色々と調べていると何かと本作のタイトルが出てきたのでいつか観なければと思いつつも、なかなか覚悟が決まらなかった。

1999年コロラド州のコロンバイン高校で起きた銃乱射事件をテーマにした作品。12名の生徒と1名の教師が亡くなり、24名の方が重傷を負った。犯人の2人は犯行後自殺。当時のニュースでもセンセーショナルな報道でした。

これはドキュメンタリーではない。モキュメンタリーでもない。実話を元にしたフィクションでもないし。これはどういうカテゴリーに入れていいかわからない映画だった。映画でもないのかもしれない。



なぜタイトルがエレファントなのか?

①北アイルランド紛争を描いたイギリスの番組名から。詳細な説明は省き、視聴者へ全てを委ねたこの番組のスタンスを本作でもそのままに。

②Elephant in the roomという慣用句から。大きな問題が目の前にあるにも関わらず、みんなそれを避けて日常生活を送っているという意味。

③群盲象を評す
何人かの盲人が一匹の象を触ると、ある人はこれは木だと言い、ある人はこれは蛇だと言う。その人それぞれにより受ける印象は変わることから、一部の評価を取り上げたところで、対象の本質にはたどり着かないということわざ。愛がなんだの最後にもありましたね。

など諸説あるようです。特典映像では監督自ら①だと言っていました。



なぜ本作を取り扱ったのか?

前半パート
学生達のありふれた日常の中にあるささいな悪意を少しずつ切り取っている。
後半パート
天気模様が荒れだしてから、犯人2人が動きだす。動機や背景にはあまり焦点を当てずに、ただただ殺人のシーンを淡々と映していく。

本作には監督など制作者側の意図は一切表現されていない。犯人2人のキャラクター性も深掘りされていない。何が正解か、何が作品のゴールなのか、本作で何を伝えたかったのかも、テーマは何なのかも、何も描いていない。

これは意図的にこういう作りをしたとのこと。

上記のタイトルの意図にもあるように、作品を観た人それぞれに委ねている。何を感じたか、何も感じなかったか。衝撃的な作品と感じたか、退屈で眠い作品と感じたか。



以上の監督の作為性を汲み取り、個人的解釈を書きます。



スクールカーストが悪い。

簡単に買うことができる銃社会が悪い。

いじめを見て見ぬ振りをする現代人の冷たさが悪い。

弱者に寄り添わない社会が悪い。

子供達と向き合おうとしない大人達が悪い。

何が悪かったのかを追求しようとするといくらでも原因は想像できるのですが。真相は自殺してしまった2人自身にしかわかりません。

ワイドショーで犯人像を探ろうとする流れが私はとても嫌いです。卒業アルバムに何を書いていたのか?隣人へのインタビューで何が見えるのか?犯人の部屋に置いていたテレビゲームや漫画から何が読み取れるのか。おどろおどろしいBGMとともに、そういったキーワードを羅列していき、勝手な虚像を放送する。それは悪意ではなく、まるで正義と言わんばかりに。

事件が起きたその事象のみ、事実のみを放送することに意義があると思います。それ以上のことに何の意味があるのか。

台詞はほぼ全てアドリブとのこと。発した言葉、それ以上に何を汲み取るか、何を読み取るかは個人個人の自由。

命を大事にしようね!なんて軽い綺麗事は言えないし、いじめやめよう!なんて軽々しくも言えない。

このもやもやをうまく咀嚼できる気はしないけど、せめてこのもやもやを忘れないように心がけます。

それが本作に対する、この事件の被害者やその家族の方々に対する誠意と私は考えました。

うまく理論立てては書けませんでした。
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