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死刑台のメロディのシネラーのレビュー・感想・評価

死刑台のメロディ(1971年製作の映画)
4.0
"メタルギア"の影響で
以前から観たいと思っていた
本作をようやく初鑑賞。
理不尽にも文字通り社会に抹殺される
現実があった事を忘れてはならない
と思わせる映画だった。

物語としては、
1920年にアメリカで起きた
サッコ・ヴァンゼッティ事件という
強盗殺人事件の冤罪を描いた、
史実に基づく内容となっている。
司法による公正な判決ではなく、
政治の絡んだ弾圧的な裁判模様は
観ていて憤慨しかない内容だった。
曖昧な証言に人種差別的な
検察側の立証と判事には、
こうあってはならない裁判の見本を
観ているかのような場面だった。
10万単位以上の抗議にも関わらず
社会的不義が通ってしまったのだが、
実際の判決に関する
抗議運動の映像も使用されているだけに
酷い現実だと思った。
そうした展開の中で追い込まれる
被告人のサッコとヴァンゼッティだが、
互いに信じる事ができなっていく様子は
心苦しくなる人間模様だった。
基本的にカラー映画ではあるが、
冒頭と結末場面がモノクロとなる事で
陰鬱な結末が一層深まっているようだった。

当時のアナキズムや移民弾圧に
反共産主義といった時代背景もある為、
その点は難しく感じる背景ではあった。
又、事件に至る前までの
サッコとヴァンゼッティの描写があれば、
もっと心苦しく感情移入できたと
思わない事もなかった。
加えて、エンニオ・モリコーネ作曲の
主題歌「Here's to You」が二人の鎮魂歌
とも言える心沁みる楽曲なのだが、
「勝利への讃歌」という邦訳は
内容との不一致を強く感じるところだった。
解釈を広げて考えると
全く間違いとも言えないのだが、
少なくともその勝利は現代でも
成し遂げられていないと思うところだ。

「ニコラ、バート。二人の移民は冤罪で処刑された。だが死をもって人々に訴えたのだ、罪のない人間を殺す社会がここにあると。」
そんな愚かな事を後世に伝える為にも
必要な社会派映画だと思った。
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