亘

フローズン・タイムの亘のレビュー・感想・評価

フローズン・タイム(2006年製作の映画)
3.8
【美を見つけられるか否か】
美大生のベンは失恋のショックで不眠症を患う。時間を有効利用しようとスーパーの深夜勤務を始めると症状が進行、彼は時間を止める力を身に着ける。彼はその能力を使い女性の美を描き始める。

女性の体の美に魅了されたベンが、下品な周囲に惑わされながらも失恋のショックを克服し新たな恋を見つけていく。この作品の特徴は何といっても女性の体に注目している点。彼は時間を止めて女性の体をデッサンし始める。これだけだと単なるエロい妄想だけど、今作ではベンは女性の体にエロとか欲望よりも美を見出しているから下劣にならない。カメラの取り方もいやらしく撮るというより曲線美を映し出そうとしているように見える。ただ一部ぼかしが入っているのは残念なポイント。今作では女性の体は美の対象であるはずなのに、急にエロの対象としているように見えてしまう。無修正版ないのかな。

一方、ベンの対象にあるのが幼馴染のショーンやバイト先の店長とバリー・マットのコンビ。彼らは下品で女性をエロの対象としか見てない。ベンが女性の体に美を見出し丁寧に描き出そうとする一方彼らはセックスすることしか考えていない。特に店長は自分の誕生日パーティにストリッパーを呼んでしまう。

また今作は美大生の主人公の視点から描かれていて、映像が美しく時折主観が入ったような面白い場面展開もある。周囲の人の流れに取り残された描写とか、回想シーンで断続的な場面が滑らかに転換するシーンとか美大生の頭の中をのぞいているようで楽しい。女性についてもベン視点からのときは女性を美しく映すのにショーンや店長がいる場面での女性は普通に淡々と映すからそこの使い分けがうまいと思う。

初めは失恋でショックだった彼だったがスーパーで夜勤のシャロンと出会う。下品で強引な店長やバリーたちに彼女を奪われずにどうシャロンと仲を深めるか、ベンが弱気だからこそ彼の新しい恋を応援したくなる。終盤のパーティ以降2人の関係は危うくなるけど、そこから関係修復できたのは彼の静物画のおかげ。下品ですぐにフラれるショーンと大違い。作中シャロンが、「美を見つける能力がある画家に憧れる」と話すけど、ベンと下品なメンバーの違いは、"美を見つける能力"だったんだろう。

印象に残ったシーン:ベンが時間を止めてスーパーの女性客のスケッチをするシーン。ベンとシャロンが夢を話すシーン。ストリッパーの正体が分かるシーン。画廊でシャロンと出会うシーン。

余談
原題は"Cashback"で、主人公が夜勤を始めた時に話したセリフ「8時間働いてお金に換える。"キャッシュバック"だ」から来ています。
亘