青山祐介

バベットの晩餐会の青山祐介のレビュー・感想・評価

バベットの晩餐会(1987年製作の映画)
5.0
『その女性(シェフ)は、カフェ・アングレのディナーを、一種の情事に、崇高でロマンチックな恋愛関係とでもいったものに、変えようとしている。』
私が愛してやまぬ映画のひとつです。
原作はカレン・ブリクセン(アイザック・ディーネセン)の同名の短編小説です。
この映画は、監督が言うように、ハムレットやアンデルセンの童話と似通った<おとぎ話>のひとつです。いわば、芸術というもののおとぎ話です。冒頭の古風なナレーションがその雰囲気をよくあらわしています。私がこの作品を愛する理由は<物語>に出会った喜びにあるのかも知れません。背景にはパリ・コミューンがあり、フランスとデンマーク、宗教でいえばカトリックとプロテスタントの対照が描かれています。ルター派の敬虔で厳格な監督牧師である父親の教えを守る二人の姉妹に恋する、デンマークの青年将校レーヴェンイェルムとフランスのオペラ歌手アシーユ・パパンの恋の顛末が、この作品のおとぎ話性をよくあらわしています。
そして、ステファーヌ・オードランのバベットです(最初に依頼したカトリーヌ・ドヌーヴは出演を断ったそうです)。オードランとはクロード・シャブロルの「いとこ同士(1959年)」以来の再会です。彼女はなんと楽しそうに料理をつくり、演じているのでしょうか。『わたしはすぐれた芸術家なのです。』バベットの言葉です。
将軍になったレーヴェンイェルムの晩餐会でのスピーチです。
『われわれはこの人生でなにかを選ばねばならいときに、だからこそおののくのです。そしてなにかを選んでしまうと、こんどはその選択が正しくはなかったのではないかと恐れおののくのです。…そして、神の恵みは果てしないことを悟るのです。
われわれにはわれわれが選んだものが授けられております。しかしまたそれと同時に、われわれが選ぼうとしなかったものもわれわれには与えられているのです。
なぜならば慈悲と真実は共に会うのです。』
青山祐介

青山祐介