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バベットの晩餐会のemilyのレビュー・感想・評価

バベットの晩餐会(1987年製作の映画)
4.4
19世紀後半、デンマークの小さな漁村で初老を迎える独身でプロテスタントの姉妹は質素に生活していた。そこに昔の知り合いの紹介で、フランスから亡命してきたバベットが家政婦としてやってくる。長年仕えてきたある日宝くじが当たり、彼女たちの父親の西端100周年をいわう晩餐会の料理をもてなしたいと申し出る。

カレン・ブリクセンの同名小説を映画化した食と人生を交差させた心温まりながら人生までも問う奥深いヒューマンドラマに仕上がっている。

暗い色彩の中広がる平屋がまるで油絵のような粗く繊細なタッチで、光と影の中に溶け込み、質感までも伝わってきそうな立体的な映像美がゆっくり流れる時間とナレーションに溶け込む。質素な生活の中にいつでも信仰と歌があり、初老の独身姉妹はその日々の中の小さな幸せをしっかり噛み締め慎ましく生きている。
クスッと笑えるようなキュートな小ネタからも二人の心の優しさや慎ましさが読み取れる。バベットの晩餐会への準備では、知らないもの、見たことない世界に恐怖を感じ、それを拒否する振る舞いはコミカルタッチで描かれてほのぼのした気分にさせてくれる。

狭い室内、暗いトーンの質素な洋服、豪華な食器に、フランス料理のフルコース。美食家で芸術のわかる将軍は賞賛の言葉を発し、料理の話は一切しないと相談しあった信者たちは頑なにトンチンカンな話を交わす。次第に言葉ななくなり、次々出される料理やワインの数々を無言で味わい笑顔になっていく村人たちの表情と、響く食べる音を静かにカメラは捉えていく。それに交差するバベットの準備している姿。一瞬の隙も許されない緊迫感の中、それを振る舞える喜びに満ちたバベットがいる。

料理に合わせた年代物のワインが注がれ、ウミガメやウズラとフォアグラのパイなど、どれも本当に美味しそうで、繊細な仕事が感じられる芸術品である。ロウソクのオレンジのひかりの中でそれぞれの溢れるキラキラした目と笑顔が交差し、いがみ合ってた信者たちの顔は穏やかな幸せに満ちた顔になっている。

当然彼らに芸術品を受け取れる器はない。それを受け取れる人たちに食べてもらうことで彼女の料理は完成するのだろう。しかし披露できる場所を失ったバベットは村人たちに披露し、その中でその価値を評価できる将軍がいたことが救いだったのだろう。芸術の奥深さはそれを受け取れる教養があり、はじめて意思疎通ができる。そうしてそうゆう人との出会いが芸術家の喜びでもあるのだろう。

それでも美味しいものは人も幸せにし、知識がなくともその繊細な仕事と愛情はしっかり人を魅了する。例え芸術家の求める賞賛が得られなくても、誰かを幸せにすることは喜びであり、それが物作りの原点でもある。
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