「暴力の前歴」に縛られた男が平凡な日常を守ろうとする、ヴァイオレンスグラフィックノベルの映画化作品。
お話自体はシンプルだ。
主人公のトム・ストールは「暴力の前歴」から逃れて田舎で平和に暮らしていたが、子供さえ殺すような強盗を返り討ちにしたことで、街のヒーローになる。トムの息子のジャックは学校の不良に弱虫と罵られていたが、父親のヒーロー的行為に触発されたことと、ガールフレンドの名誉を汚されたことで爆発する。しかしトムは有名になったことで「暴力の前歴」から追い詰められ、ジャックも越えてはならない一線を越える。トムは平凡な日常を守るために、自らの「暴力の前歴」と対面する……。
だが本作で観客が目にするのは、とにかく陰惨な暴力の結果だ。射殺された強盗は顎を粉砕されて血の海の中で痙攣し、不良は流血して病院送りになる。ジャックは父親を助けるためにした行為に自ら恐れおののき、トムは自らの過去を清算するが、守られたはずの家族に笑顔はない。
本作は「暴力について」を描いた作品だ。
どんな英雄的行為も、名誉や正義のために振われた力も、他人を肉体的に破壊する“暴力”という点では同じだ。そして暴力を振った側も、その結果を目にすればただでは済まない。暴力は暴力を呼び込み、その連鎖は断ち切れない。それでも誰かを守るために、間違っている行為と分かっていて暴力を振うのか?
そのために暴力は救いがなく描かれ、死体は医学的にリアルに損壊する。過去を清算しに行ったのにまったく清算されたように見えず、ゆえにカタルシスは得られず、見終わった後もスッキリしない。暴力がそういうものだからだ。
アクション映画を見てスカッとカタルシスを得るのは私自身楽しいが、たまには「暴力を行使すること」についてきちんと考えたいと思う。
残酷描写については、本作はスプラッター映画のような「肉が裂けて血が飛び散ることでカタルシスを与える」タイプの作品ではないので、それに特化した作品には明らかに負けている。「グロければグロい方がいい!」という方は、違う映画をオススメする。
聞き覚えのある雰囲気の曲だなーと思っていたら、音楽がハワード・ショア氏だった。楽屋オチか、王様!