しんご

ロボコップのしんごのレビュー・感想・評価

ロボコップ(1987年製作の映画)
4.3
「ロボコップ」...80年代後半、こんなB級臭いタイトルの映画を監督する奇特な方はアメリカに誰1人もいなかった。困り抜いた製作陣は国外に目を向け、オランダの気鋭監督ポール・ヴァーホーベンにオファーを出した。奥さんの説得もありポールは監督を受諾。予算は僅かに900万ドルという波乱の予感しかない航海の幕開けだった。

そんな低予算をものともしなかったスタッフ、キャストの放つ会心の一撃が心地よい快作。

当時の貿易摩擦を象徴するかのごとく、本作のデトロイトでは日系企業「オムニ社」が台頭し警察を民営する立場にまでなっていた。悪化する治安の中でストも起こさず恐怖心を持たないロボット警官を製作するプランが浮上、殉職したアレックス・マーフィ巡査が候補に選ばれるのだが...。

サイバーパンクにおける主要テーマたる「人とは何か?」をアクションメインに描く世界観は時代を越えファンを獲得し続ける面白さ。例えば腕を失った人がもはや腕の無い場所に痛みを覚えるのを「幻肢痛」と呼ぶが、本作のロボコップにも失われた筈の「自我」がまるで幻肢痛の様に襲いかかってくる。法的にも医学的にも「アレックス・マーフィ」は死亡し、残るのは生体を駆使した機械のみ。そんな運命の悪戯とも言えるバグがロボコップを苦悩させる演出はヒーロー物とは思えない渋さ。

本編の展開も他のヒーロー物とは一線を画する。マーフィーが惨殺されるシーン、オニム社員キニーが試作ロボED-209にオーバーキルされるシーン、悪党エミールが有毒廃液でデロデロに溶けるシーン等とにかく視覚に訴える容赦ないグロ描写が凄まじく、幼少期にこの映画を観る度に漏れなくトラウマが植え付けられたのは今となってはいい思い出でもある。

そんな描写と併せやはり悪玉のボスであるクラレンス・ボディッカーが本作ではもう1人の立役者であろう。観客にここまで憎悪と不快感を感じさせるキャラはロボコップシリーズどころか、他の作品を見渡してもなかなかいない。彼が慈悲もない鬼畜道を突っ走るから客はロボコップを心から応援できるし、ストーリーにメリハリが生まれる。クラレンスが麻薬製造工場で「Gun Gun Gun!」と笑いながら机をタタタンッとリズミカルに叩くシーンなんか未だに脳裏に残ってる。余談だが、クラレンスを演じたカートウッド・スミスを何かのトーク番組で見たときあまりに人の良さそうなおじちゃんだったのが印象的だった。やはり役者さんは凄いんだなと実感。

壮絶なストーリーの果て、苦難を全て乗り越えたロボコップが「マーフィ」と名乗るシーン...文句なしに爽快だし深いし泣けます。ちなみに、ヴァーホーベン監督は本作を契機に「トータル・リコール」(90)、「氷の微笑」(92)を手がけ一躍ハリウッドスターダムを駆け上がりました。
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