emily

ヤコブへの手紙のemilyのレビュー・感想・評価

ヤコブへの手紙(2009年製作の映画)
4.4
1970年代のフィンランドの片田舎、元囚人のレイラは盲目の牧師ヤコブの家に住み込み、彼の元に寄せられる手紙を読む仕事を任せられる。ヤコブの弱さを知り、レイラも次第にヤコブのために何かしたいと思い始める。

 光と陰を巧みに操り、一日の変わりゆく時間の中で、いろんな色彩に包まれたヤコブの暮らす家、そこから伸びる一本道、教会をゆっくりと引いたカメラで描写し、日々のそこにある美しさを見せてくれる。
登場人物はたった三人。物語もいたってシンプル。しかし3人の交差は静かながらも人の心を動かし、その未来をも変えていく。

 毎日木々に囲まれた一本道を郵便配達員は自転車に乗って、ヤコブへの手紙を届ける。その一本道の先には何があるのだろうか。壮大な景色をしっかり描写しながらも、その道の先は映らない。そこに暮らしていれば気づかないだろう日々の美しさを静かな音楽と共に紡ぎあげていく。

 人と係る事を絶ったレイラと、人と係る事で自らの生きる意味を見出してるヤコブ。手紙が届かなくなった時から二人の心情が徐々に徐々に交差し始める。人の弱さを見た時、少なからずとも人は自分の中の眠ってる感情がこぼれはじめる。誰かの役に立っているという気持ちこそが、自分の価値へ繋がり、結局救われているのは自分自身なのだ。人の底に眠る優しさや弱さを少ない登場人物の中でゆっくりと交差させ、レイラの犯した罪と、ヤコブが本当にレイラに伝えたかったことが浮き彫りになる。人は皆孤独で、死ぬときも一人である。

 誰かの役に立てる、いや役に立たせてもらう。それは決して一方通行ではない。相手がいて、相手にもそれを受け入れる構えがあって成り立つものだ。人と人の繋がり、当たり前に暮らす日々の中で、人との繋がりがいかに大事で、たとえ弱くとも誰かの心を動かすのはやはり誰かの力なんだと改めて思い知る。

 静かながらも、緻密に展開される会話劇の中で、確実に観客の心の隙間に溶けるようにじんわりと温かい物を残していく。先の見えなかった一本道を最後逆に向かって車が進んでいく。ヤコブが残したもの、レイラが彼に残したもの、そうして命が紡いでいくもの。そのラストには少しの光が見える
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