むっしゅたいやき

パンドラの箱のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

パンドラの箱(1929年製作の映画)
4.3
一般的にサイレント映画をトーキーと比較した場合、優れている点として“画での語り”に注力されている点、及び台詞の語調を含めた“場の雰囲気”への想像を鑑賞者へ伺す、と云った点が挙げられる。
本作はそれ等に加え、ぼんやりとした不安、又は不穏さの描写に、無駄な台詞を徹底的に排除した無声映画の利が認められる作品である。
後世まで妖婦「ルル」としてアイコンとなったルイーズ・ブルックス主演。
G.W.パープスト監督作。

本作は広義に於けるファム・ファタル物ではあるが、個人的には従来の作品とは一線を画す様に感じる。
即ち、他作品の妖婦が意識的に男を使役又は操作するのに対し、本作のルルは基本的に無邪気且つ無頓着である。
シェーン博士との結婚に纏わる諸々では成程ファム・ファタル分を発揮するが、アルヴァと一緒になってからは近寄る男、そして女が自滅するだけであり、彼女自身は義父とアルヴァを無邪気に信頼しているだけの様に見える。
この為、自業自得ではあり乍らもラストの悲劇性は高まり、哀愁と寂寥感が募る。
或る意味での純真さとエロティシズム、全くその二面的な魅力を遺憾なく発揮したルイーズ・ブルックス在っての作品であろう。

ストーリーは後半に山場が集中しており、前半一時間はやや冗長で退屈に感じられる。
と、言うより義父が完全に悪人顔で、『早く関係を切りなさいよっ』と苛立たしくすら思える。
この点アルヴァを演じるフランツ・レーデラーの瞠目顔が何故かコミカルで楽しいのと正反対である。
中盤以降は話もよく纏まり、特にロンドンに於けるとある男と慈善教会とのシークエンスも秀逸であった。

発表がサイレント映画衰亡の兆しが見え始めた時期であり、他の傑作群の影に埋れ勝ちな面も有るが、抑えておきたい名作である。
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