しゃび

天然コケッコーのしゃびのレビュー・感想・評価

天然コケッコー(2007年製作の映画)
4.5
淀みなく甘酸っぱい気分でい続けられる映画。
この作品は定期的に見返したくなる。

元々、人を描くのがとても上手な監督。この作品は、「そよ」という一人の少女の視点で人、村、町にを描いている。そこが、余計に人の心情を深く掘ることができていて良かった。
はたからみればとてもよく出来た子なのだが、本人は些細な人とのズレを気にしていて、その歯がゆさもまた甘酸っぱい。

ロケーションも素晴らしい。過疎化の進むある村(原作的には島根県らしい)を舞台に、学校や海に抜ける道、お祭りとあらゆる風景が生き生きとしている。
同じ山下監督のドラマ『山田孝之のカンヌ映画祭』の中で、「映画を撮るに、まずは撮りたい場所を見つけるべきだ。」みたいな発言があったが、本作は間違えなく撮る場所に成功している。

山下敦弘監督は多分ネアカなんだろう。
他の作品も含め共通して思うことだが、わだかまりを残して終わることがなく、観終わり感がすっきりとしている(全部観ている訳ではないので、全てがそうだと断言はできないが…)。たまにネアカすぎて、私が望むピントとズレてしまうことがあるのだが、本作に関しては本当に気持ちよく観ることができた。

一つ一つのエピソードの描き方もとてもうまく、個人的に山下監督作品の中で最も好きな作品。


ネタバレ↓

物語のラスト、そよが中学生を卒業するシーンが最高に素晴らしい。

薄暗い教室の中を、そよが壁や本、地球儀などを触りながら歩いている。胸につけたブローチで卒業式だと分かる。式の様子や友達にお祝いされる賑やかなシーンは一切なく、急に訪れる卒業式。
大沢くんとのキスをグダグタのうちに済ませ、教室からそよが出て行くと、カメラはゆっくりと横移動を始める。移動するにつれ薄暗かった教室に徐々に光が差し込み、カメラが窓際に到着する。そこには別の制服を着たそよの姿。進学したそよが、バーベキューをするために、母校に戻ってくるシーンに変わっている。同じ高校に進学を決め、坊主頭になった大沢くんの姿もある。

何とシームレスなハッピーエンドだろう。
最初から最後まで一切の淀みない甘酸っぱさである。
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