ろ

幸福(しあわせ)のろのレビュー・感想・評価

幸福(しあわせ)(1964年製作の映画)
5.0

「最近、なんだか嬉しそうね。夏だから?」

よく晴れた日曜日、一家はピクニックに出掛けた。
ひまわり柄のワンピースを纏った妻は「父の日おめでとう」と言った。
赤い服の幼い姉弟はよちよちと両親の後を追い、辺りは黄金の光を浴びていた。

そんなある日、内装会社に勤める夫フランソワは出張先で、魅力的な郵便局員エミリに出会う。
切手に描かれたシャガールの新郎新婦は暗示する、夫婦の幸せは少しずつ陰りを見せる。

「弁当が余ったし、動物園のクマにでもやるか」
「愛妻弁当なのに?」
青いペイズリー柄のワンピース、胸元に光る小さなハートのネックレス。
運ばれてきた冷えたビール、後ろでキスをする男女。
ジャンヌ・モローよりブリジット・バルドー派の男は彼女の後ろに‘誘惑’の文字を捉える。小悪魔な視線を投げかける女は彼を通して‘秘め事’の文字を確認する。

広場のお祭り、夫婦が踊っている。
樹の幹を挟んで右へ左へ、カメラが往復しているうちにパートナーが変わっていく。
そして夫は浮気相手の女と手を取り見つめ合い、またもとの夫婦に戻っていく。

「愛が2つもあって、僕は幸せだ」
「2人ともを愛せる?」
「深く考えたことないね」

「会えない時は君を思い出そう」
「でも奥さんには妬けるわ」
「テレーズは植物で、君は自由な動物だ。僕は愛するよ、両方を」
二人が寝そべる陽の当たる寝室を、暗いリビングからマーガレットの花がじっと見つめている。

女房だけで満足なのか?と聞かれれば、僕は惚れたら一途なんだと返す。
「暇がないんだ、僕は忙しい」の言葉には(不倫相手に夢中だから)が隠されている。
フランソワは「僕は幸せだ」と何度も言う。
それを聞くたびに、本当に幸せならそんなに言わないよと吹き出してしまう。

「お前には幸せでいてほしいんだ。ただ愛を禁じるのは馬鹿げてるだろう?お前が今まで以上に僕を愛してくれるなら・・・」
自分を肯定しようとするたびに饒舌になっていくフランソワは滑稽だけれど、あれは事故だと考えてしまえる浅はかさのおかげで彼はこれからも幸せに暮らしていける。

ひまわりに向かって歩いていた家族は、落ち葉を踏みしめながら去っていく。
妻はもうここにはいない。新しい妻を迎えたから。
季節が巡ることは美しいばかりじゃない。
アニエス・ヴァルダの身を切るような辛辣さがやっぱり好きだった。



( ..)φ

ヒリヒリした。とてもヒリヒリした。
レンタルDVDのケースには‘シリアス’と書かれていたけれど、‘コメディ’とも思ったし、やっぱり‘リアル’だとも思う。笑っちゃうぐらい冷めた恋愛映画だった。

キャビネットに貼られている雑誌の切り抜きは、明らかにジャンヌ・モローよりブリジット・バルドー多めで、本音と建て前を一瞬で切る監督の潔さが男前だった。
ろ