Oto

スパイダーマン2のOtoのレビュー・感想・評価

スパイダーマン2(2004年製作の映画)
4.0
スパイダースーツを捨てるシーンがちょうどミッドポイント(63分)に来る美しい物語。

舞台に間に合わないのを責められたり講義への遅刻を叱られたりバイトをクビになったりするの、『奥田民生になりたいボーイ』を見ているようで辛い。キャパ以上のマルチタスクを抱えてしまって消化しきれないけど、大切な人の幸せも知らない誰かの幸せも自分が生きるには欠かせないものでどうしようもないという葛藤。

「特殊能力を捨てる人」というのもそれだけで物語になりうるな…と思う。逆に言えば望む人にしか力は与えられないというか。
全盛期に辞めるアイドルとか、『すばらしき世界』の三上さんとかはまさに「捨てる選択をした人」で、自分もユニークな何者かになりたいを捨てて身の丈にあった与えられた役割を全うした方がむしろ活躍できるのだろうとどこかで気づいている。「心の中にヒーローがいるおかげで、正義のためには夢すらも気高く捨てられる」という悟りはある種諦めなくてはならない庶民にこそ当てはまる話で、パーカーが「怠惰」と言われるような要素が誰にでもある。
でも魔女の宅急便後半のジジやイップスになった野球選手のような「特殊能力を失った人」はその能力を望んでいないだけだろうか、とか考えてた。過剰な期待に潰されたのか、夢と幸せの両方は叶えられなかったということなのか。

葛藤が貧困と恋愛という根源的な生存欲求なのもわかりやすい。伯母の言葉で再起するのは正直あまり腑に落ちないけど、「大義のためにみんなのヒーローでいよう、だからMJとはいられない」ってだけで力は湧いてこなかったわけで、結局大切な人を救わなければという個人的な強制力と社会的責任の両方が大事という複雑な葛藤なんだろう。
デフォーの悪の証拠を暴くとか根本的な解決はもっとできそうだし、稼ぎ方もいくらでもありそうだけど。よく考えたらクモvsタコってゴジラみたいなボールドな世界観でいいな。

逆さキスの再現シーンは残酷で面白いし、「愛してない」「キスして」のシーン良い、それを遮る車というのもいかにもハリウッドらしい。
「約束」がテーマだとシナリオ分析にあったけど、約束という他者性を大切にする人としない人って確かにいるし、約束ってなんだろうというのも面白い提起。個人的には約束を守る人でいたいけれど、約束よりもその瞬間の衝動とか保身を優先する人がいるのも知っている。

各情報を明かすタイミングも完璧やな。電車で一部市民にバレるけどむしろ味方が増える→宿敵にバレて父の正体に気づく→最愛の人にバレて秘密が二人が共有する宿命になる。
基本的に出し惜しみせずに物語を加速させているけど、2はてっきり息子との対決だと思っていたからそこを保留したのは三部作の構成としても上手い。
"Isn't it about time somebody saved your life?"というセリフのためにあるような話だ。
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