Oto

オッペンハイマーのOtoのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.5
”数学は楽譜だ。読めても意味がない。君には音楽が聴こえるか?”

この映画自体が「楽譜のような映画」だと感じた。

一つ目の理由は、単純に音が主役の映画だから。
劇場だからこそ体験できる無音と衝撃波。
IMAXなのに会話劇かよ?と思ったけど、
劇場でしか体感できない音がたしかにあった。

見せ場とも見える、惨劇を想像してしまうスピーチシーン。
ずっとなんだ?って聴いていた足踏みの音も相まって凄まじい。
歓喜と対照的な罪悪感は「対位法」的。

二つ目は、考えるのではなく感じる映画だから。
交錯するノンリニアな時系列、大量の登場人物…。
これらをすべて読み解こうとすると付いていけないし、
考察を望んで作られているわけではない。
(自分も実際、1度目はそのように臨んでほぼ爆睡した)

むしろ些末な情報は気にせず、字幕を少しくらい見逃しても、
映画のリズムに乗っていった方が楽しめる。

二度目の鑑賞で気づいたけれど、序盤から意外と伏線がある。
毒林檎は、明らかに原爆のオマージュだし、
サンスクリッド後の「私は死になった」もそう。
だけど、一度目でこんなことはわからない。
後から効いてはくるものの、
本筋には直接寄与しない共産党関連の描写なども多い。

「映画はコンテンツではないアートだ」と監督はいうけど、
成熟してどんどんアート性が高まってきているように感じる。
ジョーダンピールにおける『NOPE』のような。


ノーラン自身が、『フォロウィング』のメイキングで、
「フィルムノワールは、感情ではなく行動を描くのが面白い」
という話をしていたけど、この映画はそれと対照的。

会話のばかりでほとんど人や感情が描写されない。
だから、自分はすごく眠たくなってしまった。
一方で、キティが育児放棄するあたりとかは人が感じられて面白い。
隣人の「君は住んでいる世界より先を見ているから犠牲が必要だ」とか印象的。
自分が人に与える印象もこういうことなのかなって反省した。

量子力学者は「身体を通過するのを止めてくれ」みたいな口説き方するんだな〜とか、
取調室で行為に及ぶような幻覚を見たりとかも、人間が出ていて面白かった。

結局は、好奇心に負けて身の回りを不幸にする人間が、
世界も不幸にしたという物語だったけれど、感情があまり見えない。

その点では、ストロールズは魅力的なキャラクター。
モーツァルトに嫉妬するサリエリが元ネタだと聞いた。


この映画の発想は、
「どうして世界が滅ぶ可能性があるようなものを作ってしまうのか?」
ということにあったと聞いたけど、

町山さんが「黒板で独自理論を説明する姿」を見て、
オッペンハイマー=ノーランだ
という解説をしていて面白かった。

自分の頭の中の絵を実現することに囚われてしまって、
他のことは見えなくなってしまう生き物が、
映画監督であり理論物理学者。

「我々は作っただけ、それを使うかは別の判断だ」
という言い訳をひたすらしていたけど、
これが罪深いな〜と感じた。
AIに関しても同じだけど、人間はあるものは使うので、
作る人には責任が伴うよなぁと感じた。

正直、自分にも敗戦国としての意識は普段はほぼなく、
歴史への興味も薄い方なので実感が伴わないところはあったけど、
広島や長崎という言葉が出てくると流石に身構えた。
そういう意味では、日本人こそ観るべき映画であったと思う。


でも正直苦手寄りな映画だった。
水爆の父親が『博士の異常な愛情』の元ネタだと聞いて、
そちらは未見なので見たい。


まだまだわからないことだらけだけど、好きだったセリフは、
「シーツを入れて」→「シーツを中に入れるな」の天丼。


詳しい感想は、Podcastで語りました。
https://open.spotify.com/episode/2Ym5PDvyXhUT0RcWuQZiEE?si=fdfa8fb8ee6c4d5b
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