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パスト ライブス/再会のOtoのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
3.8
オスカーの有力候補を試写会で。
一見するとかなりオーソドックスな恋愛映画だけど、コロナ禍の人恋しさを経験してきたほぼ全人類に薦められる。

『東京ラブストーリー』を現代の韓国に置き換えたようなベーシックな作品(素直な恋愛に発展しない恋愛ドラマ)にも思えるけど、やっぱり「観客が自分の思い出を引き出されてしまうところ」が凄さなのかなと思う。最近だと『花束〜』に近い。

●「再会」は出会いを運命だと錯覚させる

12, 24, 36歳の3時代が描かれるけど、二人が共有する経験は12歳の時点のものだけで、(特に男側は)それを振り返り続けてるだけなので、かなり記号的で表面的な繋がりに思える。そこが『花束〜』(好きなコンテンツしか共有できないカップル)に近い。
同じA24の『ボーはおそれている』でも思ったけど、「再会」の魔力はあるんだろうなと思って、ドラマチックで劇的な運命があると錯覚させてしまうので、本当に大切なものを見失わせてしまうのかもしれない。

だからこそ二人のギャップがどんどん広がっていって、新しい世界へ飛び出していく彼女と、「韓国的」に保守的であり続ける彼が対比される。
本人はなかなか気づかないけど、24の時点で「どうしてNYに今行かないの?」は強い違和感としてあったし、その停滞思考がその後を生んでるので、同情はしづらくてそうなるよなとも感じた。

結局「幼馴染との運命的な初恋」を引きずっているだけで、作家として成長する彼女の本質を何も知らない。
そこがツインレイには程遠くて、変化も受けられないのに、合わせることもしないという、中途半端な男だと感じた。でもそういう外れ値のないリアルさが最大公約数的な共感を生んでいるとも思う。

●ユダヤ系の夫の代替可能性

一方でユダヤ人の夫にはめちゃめちゃ共感した。ベッドでの哀しいメタ台詞「映画だったら僕は物語を邪魔する悪役だ」は自分もああいうこと言うし、
妻の「男より稽古が大事って知ってるでしょ?」でもわかるように、何かに必死に情熱を向ける人を好きになってしまうからこそ、自分が代替可能な存在であることに苦しむ。

彼女はオンライン通話をするときに袖をがむしゃらに脱ぐ様子からも、一つのことに突進するタイプだと感じて、あの時点で「夢のために連絡を取らないようにしよう」と言えるのは強いなぁと思ったけど、やっぱり人間って本質的にずるい生き物だよなぁ。バーで夫を放って韓国語で話した上に、慰める役割までさせているのだから。そういうふうに迷惑をかけられる人はすごく羨ましい。24には全然見えないけど、挙動でそう見せるのがすごい。

●画よりも言葉の作家?

二手と上下に分かれる分岐とか、雨や観覧車などの美しい画はあれど、映像的な工夫はあんまりない映画だと感じた。内省的というか小説的だと思う。

新しい名前を考える子供たちの様子で渡航を伝えたり、移住後の寂しいシーンを一瞬挟んだり、税関での自己紹介で夫婦であることを伝えたり、上手な描写は多いけど、必ずしも視覚的ではない。上に書いたように台詞として刺さる言葉の方が多かった。

でもパストライブス(前世からの縁)を意識すると、目の前にいる人や仕事で少し話すだけの人も大切にしようと思えた。
画面でしか触れられない相手の存在は、リモート会議が一般化した自分たちにとってはかなり馴染みのものになっていて、そのもどかしさを強く感じさせて、タイミングや場所は本当に大事。
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