まりぃくりすてぃ

ゴジラのまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

ゴジラ(1954年製作の映画)
5.0
「心」があって、ちゃんと「人」がいる映画。今日、通算四度目の鑑賞。毎回ラスト30分間私は泣きっぱなしになる。
これは必ずしも「怪獣映画」のジャンルには納まらない。悲しみのメタファーとしての恐竜ゴジラもふくめて、100%の人道主義映画。
宝田明さんがつい最近まで平和への思いを真剣に発信しつづけたこと、ちゃんと私知ってるよ。


……………この名作を私が最初に観たのは、今よりもっと幼かった頃。
当時、初めての恋人がいた。でも私、生まれも育ちも東京なんだけど、事情あって地方都市へ一人で引っ越さなきゃいけなくなった。そしていよいよ引っ越し迫った肌寒い三月、彼との最後のデート(別れるわけではないけど)の日、たまたま映画館でこの白黒の『ゴジラ』をやっていて、彼が「観たい」って言いだしたから、一緒に観た。
そして私、終盤の「乙女の祈り」のコーラスのところで涙が溢れた。あらすじは知っているつもりだったけど、こんなにも反戦反核の意志が鮮明であることに衝撃を受けもした。
映画館を出て私、「ゴジラが東京をメチャクチャに壊してくれたから、私、東京から出ていく踏ん切りがついたよ……」と冗談っぽく言った。彼は「そう?」と微笑んでいた。
本当は私、東京を離れるのが嫌なのじゃなかった。二人がどうなっちゃうのか、いや、それよりも、そばにいられなくなることが、せつなかった。でも、ストレートにそれを言えなかった。
不安な私を、晩ごはん後、彼は「桜、見に行こう。東京でゆっくり観る最後の桜になるかもしれないから」と大きな公園に連れてってくれた。人のあまりいない中、手をつないでゆっくりゆっくり歩き、大きな夜桜の列に見とれた。とろけそうなぐらいに綺麗。彼も同じことを言った。写真は、何となく撮らなかった。
今でも思う。瞼にだけ写し込んだあの時の光る桜は、私の生涯で一番美しい桜だ。そして、その人とは、遠恋がんばったんだけど、三年足らずで結局別れてしまった。
私の中では、『ゴジラ』と夜桜が完全にセットになっていて、『ゴジラ』を思うと、懐かしい、ほろ甘い気持ちになる。(あの日、映画を観る前に二人どこで何をしたとか、どこでどんな食事をとったかをまったく覚えていないのに。)
そして、あの日の私が不安定ながら運命にすごく愛されていたように、世界中のみんなが今幸せだといいなと思う。あの夜の公園のフワモコの風景が素敵な場だったように、世界中がずっと平和だといいなと思う。
『ゴジラ』を作った本多監督・香山さん・村田さんらスタッフの人々、平田昭彦さん・河内桃子さん・宝田さんほか素晴らしい俳優の皆さんには、『ゴジラ』でこんな気持ちになる子が一人でもいたということを、そっと伝えたいような………………………。