岡田拓朗

蛇にピアスの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

蛇にピアス(2008年製作の映画)
4.0
蛇にピアス

19歳、痛みだけがリアルなら、痛みすら、私の一部になればいい。

違うんです、これは年末年始に観るべき映画ではなかったんです。
GYAO!の配信が終わりそうだったのと電車の中が手持ち無沙汰だったのでつい観てしまった。

鑑賞後、今までにないほどの虚無感に苛まれた。
吉高由里子の体当たりな演技が一人歩きしがちな作品だが、それ以外にも間違いなく評価に値する作品。
物凄くリアルに痛々しく人並み外れた人を描いている。
重い映画はよく観るので、描写慣れはしてると思ったけど、それでも気持ち悪くなるほどにリアルで感情移入してしまい、感情移入してしまったらとことんハマって抜け出せない。

感情を持てずに痛みからの快感にしか生きる意味を見出せなくなっていくルリ(吉高由里子)と感情をコントロールできずに暴走してしまい自らの身体を変形させているアマ(高良健吾)。
その2人をも手懐けてしまい、自らの世界を創るとてつもないサディストのシバ(井浦新)。

変わりばえしない刺激のない日々を、ただ衣食住のために仕事をして、日々を暮らすことそのもののハードルすらも高いのに、それだけで全くもって満足できない人生の理想と現実のギャップを明確に捉え、そこをひたすらに突き詰めて、物語として展開している。

よく天才と狂気は紙一重と言うかもしれないが、それはスイッチが入ったときに、どのような行動に落ちるのか、または自らの主戦場で満足し切るまで昇華できるかどうか、というのが一つの指標ではないだろうか。
天才はビジネスやアート、スポーツなど、公に認められているものに昇華されていくが、狂気は全く別の方向でそれが昇華されていくか、そこだけでは満足できずに、更なる解放を求めて別の方向での昇華に走ってしまうか。
それを映したのがまさに今作であった。

表現をするにあたって、いかに自分の感情や感性を研ぎ澄ましていけるか、その上で周りに流されずにいかに自分の感性を保ちながら進化させて、それを然るべき自らの形でアウトプットしていけるか、が大事な要素になってきそうだが、今作ではその要素が痛みを課して自分を変形させること、単に自分を変形させること、人を痛めつけることにアウトプットとして昇華されているから、いわゆる異常に見えてしまうのである。

まさに理解はしようと思ったらできるのだが、共感や自分がこのようになりたいとは思えない。
そんなこと、製作者側も重々承知だと思うからこそ、理解にまで落とし込むように容赦なく極限まで描いているのが今作の凄いところ。

経験や見たことすらない世界なのに、この人たちにとってこれがリアルなんだなというのが、痛いほど伝わってくる。
目を背けたくなるシーンも多々あったけど、しっかりと向き合い続けることができた。

我慢することや刺激のない毎日を平凡に過ごすことが、彼らにとってはできないのであろうが、それ以外の中身を見ていると誰もに魅力的な点はあった。
人としての強さを持ちつつ、弱さや優しさや愛する心をも持っていて、それは全く外見だけではわからないことである。
ここまで内面をしっかりと描くからこそ見えてくるものがあって、その先に理解という少しの希望がある。

シバから与えられる痛みからの快感とともに、アマと過ごすことで徐々に感情を取り戻しつつあったルイが、アマを失うことで無気力になっていく様は苦しくて、その裏にあんなことがあるのに、もうルイはそれごと理解して受け入れ切ってるのが凄かった。

でも結局痛みすら自らの一部にまでなるということは、いつか自分で自分を殺してしまうことになるかもしれない。
感情をコントロールしたり我慢することができなかったとしても、やはり痛みに快楽を求めてしまうことの怖さはとても感じた。
痛み以外の昇華方法があればいいのに…(もちろんドラッグ以外で)
それでいうとドラッグする人も同じような原理なのかな…。

単純じゃない一人の人として生きることの重さと深さと複雑さが、しっかりと描かれている作品だと思います。
日々をやり過ごすために生きるのではなく、真の意味で生きるとはどういうことなのか、に向き合っていて、心揺さぶられるものがありました。

ただ、描写が描写なだけに鑑賞する人、できる人は選ぶ作品なので、重い作品が好きなレベル感の方にはおすすめしたいです。

P.S.
痛みとともに生きることとたまに出る説教臭さと苛々と昇華できないもやもやを抱えながら生きるルイを演じた吉高由里子、狂気を内に秘めた底抜けに無邪気なアマを演じた高良健吾、圧倒的存在感と大人としてのしっかりさと配慮の裏に秘めている狂気的サディストのシバを演じる井浦新。
身震いするくらいの演技の応酬だった。
そして、藤原竜也と小栗旬の使い方が贅沢すぎる件。
岡田拓朗

岡田拓朗