岡田拓朗

サマーフィルムにのっての岡田拓朗のレビュー・感想・評価

サマーフィルムにのって(2020年製作の映画)
4.3
サマーフィルムにのって

私たちの青春は、傑作だ。

ここに映し出されている青春は、紛れもない傑作だった。
こんなに沁みるラブストーリーや青春群像劇が待ち受けてるとは思わなかったし、こんなに涙が溢れるほど感動するとも思ってなかった。

好きなものに一直線になれる青春って、本当に眩しくて尊すぎる。
その中には好きなものを共有できる仲間の存在が大切で、それはジャンルにおける好き嫌いや思い入れをも超えていく。

時代劇かラブコメかとかジャンルは関係なくて、その中で争う必要もない。
好きなものが好きでありながら、誰かの好きも能動的にまず知ろうとしてみる、そして共有しあってみる。
そこから見える世界や発展する関係、そして生み出される感動があることを強く感じられた。

相手を陥れようとする勝負とお互いが認め合ったうえでの戦友としての勝負。
そこには大きな違いがあって、それはどちらかが歩み寄り、歩み寄られた方が受け入れることがきっかけで、徐々に作られていく関係であり、そこに必要なもの、大切なものが示唆されているように感じた。

オリンピックと戦争が全く異なるように、勝負の根底にあるものが何なのかがとても大事。
実は身構えているだけで、話してみたらよい人なんてことはいくらでもあるから、まずは歩み寄ってみないと関係は始まらない。
ハダシ側(時代劇側)と花鈴(ラブコメ側)の進展からは、そんなことを感じた。
これってそのまま映画業界の関係性も意識しているような感じがした。

程よくポップにシリアスに、SFの要素も加えながら、映画業界への未来を見据えつつも、映画が織りなす誰かの物語が誰かにとってなくてはならないものになるという映画をなくしてはいけない理由や、それを残していく熱い思いに触れられている展開もよかった。

あらゆる要素を詰め込みながらも破綻せずにしっかりまとまっていて、脚本の積み上げとクライマックスにかけてのお膳立てと畳み掛け、さらに点が太い線につながっていく最高のラストシークエンス(クライマックス)それ自体のも素晴らしくて、全てはこのためにあったんだと思わず涙が溢れまくった。

『プロミシングヤングウーマン』の感想でも同じようなこと書いたけど、その種類は全然違う。
でも、脚本の積み上げから、全てをラストに詰め込んでくる演出は似ていて、それがいろんな思いや感情が描かれながら、予想を超えたラストが映し出されたとき、感極まってより強く心が揺さぶられるものになる。

あの結末には一緒になることだけが愛ではない、あえて斬ることでお互いの大切でなくてはならないものを守り、承継しながら残していく覚悟を持って離れる道を選ぶ、その人たちでしかわかち合えない強い愛を感じた。

誰もが愛おしくて、大好きになれる。
そんな作品が増えているのが素晴らしくて、新しい時代の幕が上がってる感じがする。

平成の青春映画の金字塔が『桐島、部活やめるってよ』だったら、令和は『サマーフィルムにのって』になるんじゃないだろうか。

青春映画としても、恋愛映画としても、夏映画としても、確実におすすめできる映画です!

P.S.
ハダシ役ぴったりで全身を使っての表現力が素晴らしい伊藤万理華さんももちろんよかったけど、個人的にはビート板役の河合優実さんの演技と雰囲気により強く惹かれた。
ビート板は、実はハダシのことが好きだったんだろうなーと思った。
ああいう一歩引いて、自分以外の人の成功を心からサポートできる人は、自分の思いが報われないことが多いけど、誰かがちゃんと見ていて、実は一番なくてはならない存在。
岡田拓朗

岡田拓朗