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トリコロール/赤の愛の海のレビュー・感想・評価

トリコロール/赤の愛(1994年製作の映画)
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歳の離れた人に愛を告白されたことが今までに二度ある。一度目は母よりは歳下の女性、二度目は祖父よりも歳上の男性だった。二人目の方は職場で知り合った方で、よく本や花の話をしていた。彼が定年退職してから間もなくメールが来た。「僕から付き合ってとは言えないからせめて心の中で恋人と呼ばせてください。誰のものにもならないでください。」今貰っていたらもっと気の利いた返信ができたのかもしれないけれど、当時のわたしにとってこれはかなり衝撃的な内容で、「ごめんなさい。」と送ったきり電話帳から削除して、メールにも一度も返信をしていない。本作を観ながらそのことをずっと思い出していた。わたしはしばしば、誰かにときめきをあげたくて、意味のある言葉をわざわざ探して投げかけてしまう。確かにそれは思わせぶりな態度なのかもしれない。でもときめきと恋は、本来はっきりと違うはずだ。あなたを救う愛か、あなたを救いも殺しもする愛か。わたしはいつも、ただ救うためだけにある愛を、誰かに渡せるような人でありたかった。封じていた夢や、忘れていた涙を、誰かに思い出させるような。返信をしなくなってから、一度だけメールが来た。ずっとエベレストに登るのが夢だったので、この歳で登るのは叶わなくても、見に行こうと思っています、というような内容だった。彼にその行動を起こさせるために仕組まれた数々の運命の中の一つに、わたしが入っているのなら、それだけでもう十分だった。そういう付き合いを、わたしはわたし以外の誰かと、いくらでもしたいと望んでいる。そういう愛しかたで、わたしはわたし以外の誰かを、できるだけ愛し続けたいと願っている。内側に向けている愛を、たった一瞬だけ外側のなにかに向ける時に生まれる感動、変わっていく運命、それが観たい。そしていつかつなぎ続けた手を放して飛び込むべき海をさがしてる、見つけたい、今度はわたしの夢も涙も温もりも思い出させてくれるあなたのことを。愛を全部拾って返して。青、白、赤、今自分に一番近いのは、間違いなく赤だ。
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