海

希望のかなたの海のレビュー・感想・評価

希望のかなた(2017年製作の映画)
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わたしが、ほんとうの意味のやさしいひととなるのは、いつだろうか。この映画を観ている途中に、それを考え始めて、今日はやさしさというものが何もわからなくなって、長い散歩をした。少し前まであんなに寒かったのに、フリースのジャケット1枚でもあまり寒さを感じなかった。森に行ったあと、海へ行った。森の入り口では木の上でレンジャクが群をなし囀りあっていた。わたしは木肌が好きで、iPhoneの写真フォルダで木肌の図鑑を少しずつ作っているので、いろんな樹の幹を接写しながら、立派にふくらんでいる地衣類に見惚れたりもした。海はさすがに寒くて、よろめきながら歩いた。焦げたような流木を見つけて、白い砂にまみれたオオスズメバチの亡骸を見て、クロマツの大きな樹を抱きしめて、帰った。わたしが、すぐ誰かのことを嫌いになってしまうのは、もう会いたくないと思ってしまうのは、誰のこともどうでもいいとは思えないからで、あと、自分を守りたいからなんだとおもう。だからときどき、遠ざけてきたすべてのひとのことを、まとめてもう一度好きになりたいとおもうときがある。眠っているねこの、やわらかく深い毛なみに鼻を寄せると、今日は、冬の夕方の風の匂いがした。毛並みって毛波だなあ、って言いながら、雨が降るまえの風は、海みたいになって、わたしを濡らすことを思い出す。どんなささいなことでも、それがただしいなら、それがほんとうなら、それが、わたしをわたしでいさせてくれるのなら、つづけていかなくちゃいけない。こんな日を待って生きてたと言って笑うときまで終わらせない。痛みを知っているからやさしくなれるんじゃない。やさしいから痛みを知ることになるだけだ。血がたくさん出ても、たおれるほど殴られても、ぜんぶ忘れたようなかおをしてあなたに会いにいかせてほしい。ねむってるあなたをいつも見てるよ。どんなゆめを見ているときもあなたはここにいるよ。大丈夫だからね。
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