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ウィッカーマンのTSのレビュー・感想・評価

ウィッカーマン(1973年製作の映画)
4.2
【神の不在】88点
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監督:ロビン・ハーディ
製作国:イギリス
ジャンル:サスペンス
収録時間:86分
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これはカルト傑作です。無神論者と言えば聞こえは悪いかもしれませんが、宗教と縁がない人ほどショッキングな映画であり、また一本取られる映画でもあります。今作は極めて宗教的な作品であるのですが、気づくと「神の不在」を訴えられている気がしてならないのです。神とは何なのか。人間の都合により生み出された何かなのかもしれません。

行方不明になった少女であるローワン・モリソンを探して欲しいという一通の手紙が、警察に勤めるニール・ハウイーのもとに届く。そこでハウイーは彼女がいると思われるサマーアイルという孤島に足を踏み入れるのだが。。

今作を最大限に楽しみたいのでしたら、事前に「ウィッカーマン」という語句は調べない方が良いでしょう。このウィッカーマンは実在していたものであり、その用途を知ると寒気がします。孤島に住む人々はどこかおかしい。いや、彼らからしたら日常の生活なのに我々の目線から見ると妙な部分が多いのです。しかしこれは重要な着眼点だと思いました。いかに人間が自分の生活文化の水準でしか物事を見ていないということがわかってきます。
例えば、当たり前ですが我々も何か食べ物を食べないと生きていけません。豚や鳥を殺し、それを食します。豚や鳥の立場になると、我々の行動や表情は全て理解できない歪なものに見えるでしょう。我々は笑顔で鳥や豚の肉を切り刻み、煮たり焼いたりして家庭で笑顔でそれを食べています。鳥や豚の立場になると恐怖そのもの。
もうおわかりでしょうが、今作はそれを人と人というもので再現しています。ヨーロッパ世界で優勢と言うべきキリスト教徒が、未知の世界の宗教を信仰する人々に蹂躙されていく様を描いています。末恐ろしい。人間の固定概念というのは中々変えることはできず、今作でも彼ら島民の行動を止めることは非常に難しい。ただ捜査にきただけなのに。。ハウイーに何も非がないのがまた気の毒であります。神がいるならば敬虔なキリスト教徒である彼に何かしら救いの手をさしのべるはず。また、多神教である島民たちにも神がいるならば、不作・凶作という結末を与えることはないはず。最後のシーンは凄まじくショッキングであり遣る瀬無い気になりますが、同時に「ああ、やはり神はいないのかな」と思えてしまう節もあります。

人間は弱き存在です。だから目に見えない超自然的なものに縋る他ない。それが一集団の中で常識となってしまったら「宗教」が発生するのです。そして違う価値観や思想を備えた宗教がぶつかり合う時、神の有無、所在が問われるのです。今作の示す答えは何なのか。人間の宗教的歴史に関して関心を持ってしまうとともに、人の愚かさ、脆弱さも感じ取れる傑作であります。胸糞映画と言えばそれまででしょうが、サスペンス映画としても十分楽しめるでしょう。

なお、未見ですがニコラス・ケイジが主演のリメイクが出ています。しかし、頗る評判が悪いのでこちらを見ることをオススメします。
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