過去に観た名作のレビューを書いてみるの巻。第六回目は、少し現代に近づいて、イタリアの名匠、ナンニ・モレッティがパルムドールを受賞した、「息子の部屋」
かなり現代に近いせいか、古典と呼ばれる作品と比べると共感の度合いも高いのが特徴。
レイモンド・カーヴァーの詩、"The River"が劇中で詠れる。ブライアン・イーノの"By the river"が流れる。が、川は特段出てこない。我が国の「方丈記」にある有名な序説、「行く川の流れは絶えずして、本の水にあらず」のように、万物流転を説きながらも、仏教的な諦観ではない。かといって、キリスト教的な全ては神の御業にしてしまう思考停止でもない。
不慮の事故で亡くなった息子の足跡を追いながら、自らの、家族の生の痕跡を確かめる。信仰に頼らず、家族の力で、時に軋轢や葛藤にぶつかりながらも、少しづつ前に進んでいく。川には静流も激流も濁流も清流もあるように。
これほどまでに見事に救済と再生を描いた作品は中々ないと思う。