海

ふたりの海のレビュー・感想・評価

ふたり(1991年製作の映画)
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妹が中学生の頃に集めていた赤川次郎の本が、まともな本棚のない彼女の部屋に代わって今わたしの部屋の本棚に並んでいて、そのなかに『ふたり』もあった。ふとそれを思い出して、妹を誘って一緒に観た。服かわいいねぇとかいい家だねぇとか尾道また行きたいねぇとかこの学校てまだあるのかなぁとか喋りながら、わたしの部屋のベッドでふたりで寝転んで、たまに様子を見にやってくる猫を「見て、また来たよ、かわいいね」と言いあって笑ったりして、一緒に観た。途中で妹が、「妹に好きな人とられるってどんな気持ちなのかなぁ」と言って、わたしは「自分の好きな人だったら、どんな人かわかっているからきっと安心するよ」と答えた。「ふぅん」と言って妹はまた黙って映画の続きをみていた。わたしの人生に、なくちゃならなかったものというのがいくつかあって、出会えなかったら今頃死んでただろうなってものがいくつかあって、それは映画で、それは音楽で、それは猫で、それはいろんなひとで、そしてその中の一人が、もしかすると一番おおきいかもしれない一人が、家族でもあって親友でもある妹だった。何か特別に、こういうとき、こういうことがあって、救われたんだよって瞬間があったわけではないのに、わたしは妹が居るなら死なずに生きていけると思ったことが何度かある。千津子と実加の、たったふたりの姉妹をみていて、こんなになつかしくていとおしくて幸福な気持ちになったのは、わたしにも妹がいるからなのかなと思って、温かかった。「実加はお姉ちゃんがそばにいてくれたから強くなれたんだよ」てふと妹が言って、わたしもずっとそうだったよと思った。わたしも死んだら化けて出るよ絶対って言ったら、妹は「あたしは海ちゃんよりもママのほうが心配かも」と言って笑ってた。あなたが居なくなったら、わたしもあなたのことをきっと形で残そうとするよとわたしは言った。風のとおる家、坂道の多い町、歌の響く部屋、書きあげたまま放っとかれてる小説、夏も冬も、雨も雪もある場所、わたしにとって、こんなに心地良い映画はきっとあんまりないから、生まれ出てくれてありがとうの気持ちでいっぱいになった。冬の夜に路地裏を歩きながら好きだった人の話をしたこと、尾道で樹木希林さんのことを話したこと、泣いてるとき抱きしめてあげたこと、誕生日にたくさんの詩と短歌を書いて送ったこと、それが妹の部屋の壁に貼ってあったこと、書いた小説を読んでもらったこと、気づいてほしかったところにすぐ気づいてくれたこと、めちゃめちゃ汚かったウィークリーマンションのシングルベッドでくっつきあって寝たこと、夜更けまで話し込んで毎日一緒なのに何でこんな話すことあるのかな?って大笑いしたこと、いろんなことを思い出して、きっと今夜はわたしの部屋が世界で一番の夜だった。いつか死んで、また生まれるときも、この子と姉妹になりたいと心から思う。できたらそのときもわたしが姉がいい。守ってあげられるからわたしはお姉ちゃんがいい。
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