シズヲ

モホークの太鼓のシズヲのレビュー・感想・評価

モホークの太鼓(1939年製作の映画)
3.8
アメリカ独立戦争の最中、開拓者として逞しく生きる道を選んだ夫婦の物語。ジョン・フォードの初カラー作品らしく、要所要所の風景描写できっちり決まっている。行進していく兵士達をヒロインが丘の上から見送る場面、白馬に乗った主人公が炎上する家へと向かっていく場面、朝焼けをバックに主人公が先住民に追われながら逃避行する下りなど、度々見受けられるロングショットの美しさが印象深い。主人公と先住民の追いかけっこは全然関係ないけど『裸のジャングル』ちょっと思い出した。

冒頭から夫婦の門出・自立をササッと書き進めて二人の馴れ初めや開拓地への適応なんかはさっくり流したりなど、潔いテンポの作り方が小気味良い。新居到着シーンの雨夜の陰影が印象深く、それだけにキリスト教徒の先住民ブルーバックスが初登場するシーンはさも妖怪か何かのようなインパクトがある。雨の描写に関しては映画中盤で負傷した兵隊が帰還するシーンも印象に残る。

基本的には開拓の物語であり、新天地に逞しく根を張ろうと生きる夫婦の姿がいかにもアメリカ的浪漫に溢れている。軍人や女性たちが寄り合う“一種の共同体”として存在するジャーマン・フラット砦の描写も印象的で、後の騎兵隊三部作のようなアメリカの縮図性を感じる。子供が生まれたら総出で祝福するような連帯性が見ていて心地良い。何処かユーモアを感じさせる脇役達の姿はフォード映画らしい味わいに満ちているけど、中でもエドナ・メイ・オリヴァー演じる未亡人は実に豪胆なキャラクターで存在感がある。先住民にベッドを運ばせる下りが妙に味わい深い(先住民もわざわざ運んでやるのが笑う)。牧師がごく自然に“扇動者”としてコミュニティーに溶け込んでいるのが良くも悪くも印象的。

合衆国独立を認めない英国にけしかけられた先住民達が主な悪役ということもあり、開拓民VS先住民という古典的な構図が繰り広げられる。古典西部劇でもお馴染みの野蛮人ぶりとはいえ、開拓地襲撃シーンや砦の防衛シーンなど先住民が絡む場面は引きの撮影も相俟って中々の緊迫感がある。そして前述の通りキリスト教徒の先住民を味方に配置することで、当時としてはバランスを取ってる感はある(それ自体が教化の産物ではあるけど)。

負傷した兵隊達が帰還し、そのまま屋内へと運ばれるシーンなどからはある種の戦争映画的な側面も感じる。戦場での体験を克明に語るヘンリー・フォンダの姿からはPTSDを連想させられ、また直接描かれないとはいえ将軍が壊死した脚を切り落としたり(将軍の気丈さが印象深い)など、当時の描写としては過酷。
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