ダイアー教授

食人族のダイアー教授のレビュー・感想・評価

食人族(1981年製作の映画)
5.0
題:本当の人喰いは誰なのか?Who the real cannibals are ?

製作:1980年イタリア
原題:Cannibal Holocaust
監督:ルジェッロ・デオタード
音楽:リズ・オルトラーニ

本作、日本での公開は1983年…『ET』の次点のヒット映画とのこと。
こんな映画を大勢の人が観て楽しむ、寛容な時代があったことに驚きます。
<あらすじ> 
未開のジャングルに取材に行った気鋭のドキュメンタリー作家アラン・イエーツ青年とその取り巻き。
アラン率いる取材班が失踪し、その騒動を知った考古学博士モンロー教授(主人公)が現地に捜索…
アランたちが残したフィルムが発見され、そこにはおぞましい映像が残されていた!

本作、何を言っても喰い足りませんがキリがないので、3つにまとめてレビューします。

1.音楽がいい
作曲はリズ・オルトラーニ。
オルトラーニは『世界残酷物語』のテーマ「モア」の作曲者として有名。
タイトル曲はもちろん、ショックシーンで流れるチューン「Adulteress' Punishment」が不気味で非常にいいです。
※ピュンピューンって変な音が気味悪い。

2.やらせドキュメンタリーのパロディ
本作にはヤコペッティの『世界残酷物語シリーズ』のパロディ的な側面があります。
『残酷物語』はドキュメンタリーと銘打っていますが、“やらせ映画”です。

『食人族』の劇中でアランたちが撮ったドキュメンタリー映画「地獄へ続く道」が紹介され、これが“やらせ”であることが明かされます。
※「地獄へ続く道」の処刑シーンや死体…実はホンモノなのですがwww
つまり、アランたちはヤコペッティみたいな“やらせドキュメンタリー”を撮って有名になっていたのです。

彼らはジャングルでもショッキングな映像を撮るために、原住民たちの抗争をねつ造します。
村を焼いて、少女を暴行し殺し…
あまつさえその死体にセンセーショナルな演出まで加えます。
また、ショッキングシーン目的で毒蛇に噛まれたガイドの脚を切断し、死に至らしめた疑惑もあり!

野心に身を任せて、人を欺いてきたアランたちはどうなるのでしょう?
どんな目に合うのでしょう?
彼らは報いを受けるのでしょうか?
それが彼ら自身が撮ったフィルムに残されています。
それは“やらせ”ではありません。

3.真の食人族は…?
食人族たちが蜂起した真相を知ったモンロー教授が配給会社の重役たちを前に問いかけます。
「彼らの立場になってみなさい。神聖なものを土足で踏みにじり、冷蔵庫の食料をトイレに捨てたとしましょう…
果たしてあなたは文明的に振る舞うでしょうか?/Would you behave in a civilized way?」

吹き矢と弓矢で闘い、テープレコーダーを神聖なもとみなす食人族と、
近代兵器の銃で武装して、カメラを使いこなすアランたち…
どちらが野蛮でしょう?
アランたちの行いは文明的と言えるのでしょうか?
それは人間的と言えるのでしょうか?

文明人が暮らす先進国の市場は血で血を洗う弱肉強食の世界です…
富裕層は貧者を食い物にして私腹を肥やしています。

「本当の食人族は誰なんだろう?/I wonder who the real cannibals are ?」

我々、文明人こそ本当は“食人族”かもしれない…
ラストシーン、ニューヨークの高層ビル群を前にモンロー教授が最後に投げかけるメッセージがお腹に重く響きました。