また今までとは別視点で、善悪に揺れる葛藤を淡々と描写されている作品。
太平洋戦争時中の捕虜を生体解剖するという衝撃の実話をもとにした遠藤周作原作の映画化、というよりももはやドキュメンタリーかというほど、生々しく描かれていた。
遠藤周作は、スコセッシ監督が映画化した「沈黙」でもその生々しさと絶妙なくらいの温度感で、実話を書物にしており、今作も含めて、どうしようもできない時代の中での善悪やその時々の様々な立場の人の葛藤と振る舞いを様々な視点から突きつけてくる。
そうすることで、視聴者の脳裏に焼きつけて、もう二度とこのようなことが起きないようにしていかないといけないと、忘れないように残そうとしているような感じがする。
人の命に優劣はないはずだが、戦時中では、敵味方だけで天と地の差くらいに命に差があったんだなと、改めて思い知らされる。
解剖する側も、意外とそれに躊躇がない人が多いことが考えられない。
その中で、ただ一人、研修生でその善悪の葛藤に揺れ動いている青年(奥田瑛二)に唯一感情移入できたし、これが真の姿であるべきだとも思った。
おそらく教育が洗脳になっていたんだろう。
善悪の軸が当時と現代では全く異なることがよくわかる今作。
淡々とし過ぎていてかなり辛くなったし、それで戦後責められる青年は救いがなさすぎる。
どう考えてもおかしい。
善人役の奥田瑛二と悪人役の渡辺謙。
若い二人の気迫のある演技にも注目の作品である。