めしいらず

ピアノ・レッスンのめしいらずのレビュー・感想・評価

ピアノ・レッスン(1993年製作の映画)
3.4
だだっ広い浜辺の波打ち際にポツンと置かれたピアノのロングショットの見惚れる美麗さ。採光が印象的な室内シーン。そんな格別な画の魅力に加えてナイマンの荘重な主題曲もこの映画のイメージを決定づけるほどに素晴らしい。触れられる快感。最初は閉じていた心とは裏腹に身体はそれを求め始める。そして次第に心まで支配されて行く。着衣の穴から直接触れられたときの肌の鋭敏な感覚のエロティシズムは裸で抱き合うよりもよほど強烈に感じられる。直情的な妻に頑なに拒まれ、彼女が別の男の元へ走るのを見て手をこまねく夫の哀れ。彼は何一つ悪くないけれど妻にとってはただつまらない男。善人より強い男を女は求めてしまうものらしい。彼女は男の強気な要求に少しずつ身体を、やがて心を開いていく。屈服させられることの得も言われぬ陶酔。女は生に性に強かである。海底に沈んだピアノ。ラストの死のイメージが美しい余韻を響かせる。邪気なく悲劇を期待しているような娘の悪魔性が利いている。個人的には悲劇的な結末の方がこの映画には似つかわしい気がしてしまう。
再鑑賞。
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